恋人に振られた。
理由は聞いていないが分かりきっている。
何回も、十何回も、何十回も繰り返した事だから。
──伊作が原因だ──
そう思いながらも俺が一番に向かうのは伊作の部屋だった。
何故なら落ち込んだ俺を慰めるのが伊作の仕事だからだ。
勢いよく伊作と食満が使う長屋の部屋の襖を開け放った。
「名前、どうしたの?」
部屋を見ましても食満は居ない。
ろ組と鍛練でもしているのだろうか。
丁度良い。
正座している伊作に抱き着いた。
横になって伊作の膝に顎を乗せ腰に腕を回す。
「また、振られたの?」
失笑。
ばれていないないと思うのか?
俺達は仮にも忍者の卵だぞ。
だけど俺は気付かない振りをしてより強く伊作に抱き着いた。
「何がわるいんだ……?」
「名前は優しすぎるから、ね」
「俺は優しくなんかないっ……伊作、伊作」
実を言うと俺は恋人の事をほとんど伊作に話していない。
ただ、恋人が出来たと伝えるだけ。
俺は何も話していない。
否、何も話したくない。
悔しいのだ。
伊作が俺の恋人を盗るのだと知っているから。
伊作が俺の恋人を盗るのだと期待しているから。
伊作、こんなにも俺が嫌いなのか?
もう、親友には戻れないのか?
優しく愛しい伊作を力一杯に抱き締めた。
「名前、痛いよ」
伊作はそっと背中を撫でてくれる。
「伊作……」
伊作をこの腕から離せば簡単にすり抜け伊作は何処かへ行ってしまうだろう。
何処かとは俺の元恋人達の所?
だから、離せない。
この気持ちを伝えれば簡単に想いを拒み伊作は誰かの元へ行ってしまうだろうか。
伊作、伊作、伊作、
だから伝えられない。
どうか、許してくれ。
こんなにも弱い俺を許してくれ。
お前を離せない俺を許してくれ。
お前を騙し続ける俺を許してくれ。
「いさく……」
「名前?」
臆病過ぎる俺を許してくれ。
俺はきっとまた伊作に伝えるだろう。
新しい恋人の最小限の情報を。




あのね、名前。
名前さえ言ってくれたら僕はもうこんな事しないんだよ?
名前さえ僕に好きだって言ったらあの女の子だって傷付かないで済んだんだよ?
名前 名前 名前
名前が僕といるよりも皆と共に居たいと言うなら止めはしないよ。
名前が僕の元を去っても咎めはしないよ。
僕と生きるより他の誰かと生きる方が良いならば。
名前 名前 名前
それだけは許さないよ。
名前 名前 名前
早く気付いて。
あんな簡単に心変わりする女なんかじゃない。
ずっとずっと名前を愛し続けた俺がいるよ。



無理に遠回りする必要は無いよ
(こんなに貴方を想う男が近くにいるのだから)


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