こないだの話をしようと思う。

最近、高杉の様子がおかしかったんだよね。授業中や休み時間にボーっとしていることが多くて、放課後はすぐさまスタスタと帰ってしまうし、学校を休むこともしばしば。何か悩み事でも抱えているのだろうか。
高杉が悩みなんて、何か面白そうな予感がして沖田と暇つぶし程度に首を突っ込んでみることにした。俺たちはお互いの不幸を笑いあえる仲なのだ。






「猫、拾った」

「は?」

「白くてなァ、ふわふわの」


どこか明後日の方向を見て頬を赤らめる高杉はかなり気持ち悪かった。
話を聞くと、どうやら一連の原因は猫らしい。無愛想な高杉が猫を愛でている姿を想像したら物凄く笑えた。


「……ぶっ」

「ブハハハハハ!」

「前から言おうと思ってたけど沖田のそのムスカ笑いウゼェ」


高杉が、あの高杉が!猫!
沖田と顔を見合わせて笑いが止まらない。だって、一日中その猫のこと考えてるってことでしょ?
あはは、可笑しいったらないや。


「どこで拾ったの?」

「河原」

「名前は何てんでィ」

「…フェニックス」


…フェ、フェニックス…!!
なんてひどい中二病なの。何で猫に鳥の名前付けてんの。絶対意味も分からず言葉の響きだけで付けちゃったパターンだよ。恥ずかしい子だなぁ。


「高杉ってホント面白いね」

「これは見に行くしかないな。神威君も来たまえ」

「ムスカ止めろ。つかお前ら来たらフェニックスが恐がるからヤダ」


ひどいなぁ。どんだけ大事なのフェニックス。
とりあえず高杉の財布の中を全部ギザジューにしたら怒りながら許可が出た。

というわけで来ちゃいました高杉くん家。





「フェニックスー」


うわ、ホントにその名前で呼んでるよ。沖田なんて凄いブサイクな顔で笑いを我慢してる。超面白いんだけど。


「にゃー」

「よしよし、遅くなって悪かったな」


白い猫を抱く高杉はやっぱり気持ち悪くて。沖田は何だかんだ言ってミルクあげたり(いつもの悪趣味な写メもいっぱい撮ってた)楽しそうだった。まあ俺は"おいで"って言っても知らん顔する猫にはもう何の興味もないけれど、でもフェニックスも高杉も、何だかほんわかしてて可愛かったかな。


そんなある日。
高杉が数日ぶりに、真っ青な顔をして登校してきた。どうやらフェニックスがいなくなったらしいのだ。高杉は毎日必死に探し続けたけれど見つからないという。


「じゃあ、俺たちも探そうよ」

「いや、首輪してたから…飼い主の家に帰ったのかも」


実はフェニックスは飼い猫だった。首輪が付いているということは飼い主がいるということだ。それでも高杉は一緒にいたかったんだと思う。それほどあのコが大切だったんだね。


「…いいの?」

「あ?」

「それでいいの?帰ったかどうかなんて分からないよ。今頃高杉のことを想いながら鳴いてるかもしれないよ?」

「そうだぜィ。フェニックスはお前に随分と懐いてからねィ」

「お前ら…」




そんなこんなで俺たちは街中を走り回った。学校なんか行かないで、自分でも不思議なくらい一生懸命探してたと思う。そしたら高杉が見つけたんだ。家族と楽しそうにじゃれ合うフェニックスを。







「幸せそうだったね」

「あァ」

「なんでィ、心配して損したー」

「そうだな」


高杉は笑ってた。愛おしそうな目をしながら笑ってたんだ。
あれから高杉はいつもの高杉に戻った。無愛想で、目つきが悪くてすぐ怒る。

でもある日、また高杉がおかしくなった。そしてあの気色の悪い顔で俺たちに言ったんだ。


「犬、拾った」

「……へぇ、名前は?」




「ブラックファルコン」


今度はどうやら黒い鳥らしい。
やっぱり高杉は面白い。