「「おーきーたーくーん!あーそびーましょー」」


青空が綺麗な今日。じめじめとした梅雨も終わり、季節は夏本番を迎えようとしていた。そんな7月8日、金曜日。朝目が覚めて顔を洗ってトイレに行って、笑顔が眩しいアナウンサーの天気予報を見ながら牛乳を飲む。支度をして主役の家へと急ぎ神威と外から叫んでやった。これ一回やってみたかったんだよな。そんな、いつもと少し違う今日。



「バスバスー!」

「はしゃぐんじゃねェよ神威」

「ねみィ…。朝っぱらから連れ出してどこ行くんでィ」

「さあな」

「無計画だよ」

「はあ?」


半分しか開いていない目をさらに半分にして不快な表情を見せる沖田。神威は相変わらず笑いながら窓を全開にして初めてのバスを楽しんでいる。ラッシュ時を避けておいて良かった。


「行き先は決めてないのさ。気のみ気のままに旅をするんだよー青春だねぇ」

「お前誰だよ」

「まあ、…嫌いじゃねェけど」


ブツブツ呟く沖田を見て神威が笑う。
なんとなく。ただなんとなくだけど、誰かの誕生日にこうやってバカみたいに集まって、アテもなくどこかに行くのも悪くないと思ったんだ。神威じゃねぇけど旅人みたいなちょっと新鮮な気持ちで。


「で、お前ら早くプレゼントよこせやい」

「うわ、沖田ってちゃんと自分の誕生日覚えてるんだね」

「恥ずかしいー図々しいー」

「うるせェ。神威にはプレゼントあげただろィ」

「ああ、これね」

「何かよく考えるとキモイな…」


俺たちのカバンには神威の誕生日に沖田とUFOキャッチャーで取ったお揃いのストラップが揺れている。未だ律儀にそれを付けていることが可笑しくて仕方ない。


「じゃあまたストラップにする?オソロで」

「お前なあ、話聞いてなかったのかよ」

「どんどん増えてったらそれこそキモイだろィ」


ジャラジャラと、誕生日を迎えるごとにお揃いのストラップが増えていくなんて考えただけでも恐ろしい。お前らどんだけ仲良しなんだってバカにされるのが目に見えている。


「だって沖田だけストラップ以上のもの貰うなんて許せないよ」

「まあ、確かにな。じゃあナシで」

「じゃあストラップで」

「…どんだけプレゼント欲しいんだよ」

「あっ海!」


窓からこれでもかというくらい身を乗り出した神威の声で、とうとう海まで来たのだと気付く。


「綺麗だね」

「落っこちても知らねェぞ」

「むしろ落ちてカッコ良く着地しろィ」

「沖田のドS」

「高杉のドM」

「なんでだよ」






***

「で、3連休は楽しかったかな?金曜どこ行ってたんだよ」

「海だよ、センセ」

「誕生日祝いでさァ」

「あっそ。でもサボりはナシな、先生怒られっから。あ、高杉の誕生日のときは俺も誘えよ」

「へいへい」

「誰が誘うかよ」


月曜日。サボったことは許してもらえたが、今日1日の雑用係に任命されてしまった。またストラップ買ったの?仲良いねぇ、なんて言われながら。


「このストラップほんとバカっぽいよね」

「ああ、沖田がコレして寝てると殴りたくなる」

「このウサギも十分バカっぽいぜ」

「違いねェ」


カバンの端には、人をおちょくったようなアイマスク型のストラップとウサビッチ。このふざけたようなバカっぽさがコイツらそっくりで笑える。と同時に、俺は先の誕生日に一抹の不安を覚えた。