暑い、暑い暑い暑い!
もわもわと、俺たちを覆う暑苦しい空気はまるで意志を持っているんじゃないかってくらい暑い。
むかつく。そんな状況下ほわんとした表情ですぴすぴ眠りこけてる高杉が。


「おい」

「すぴー、すぴぴぴぴ」

「……」

「すぴすぴすぴぴ」

「お前ぜってーわざとだろ、起きてんだろ」

「すぴす」

「だああああ!黙れ!」

「…うっせーな土方」


くあ、と欠伸をする高杉はやっぱり変だ。この糞暑い中汗ひとつかかずおまけに皮膚は真っ白ってどういうことだ。コイツは暑さを感じない別世界の人間なんだろうか。もしかして高杉だけ適度な温度の異空間に身を置いていて、何かすげー最先端技術であたかも此処にいるように見せているのでは。だからつまり実際この糞暑い屋上に存在しているのは俺一人なんじゃ…?


「…暑ィ」

「……」

「……」

「え、お前宇宙人じゃねェの?」

「は?」


高杉の蔑んだ視線が痛い。俺はイカれてねぇよ。お前が暑いとかおかしなこと言うからだ。…あれ?
いやいや暑くていいんだ、高杉が暑い中で暑いと感じてくれて良かった。コイツは別世界の人間じゃなかったんだ。つか暑かったのかよ。それならできれば場所を移動したい。ああ、暑い暑い言いすぎてもう溶けそうだ。


「なら教室行くぞ」

「えーやだ」


なんでだよ。やっぱり宇宙人か。俺はこのワガママ王を置いてさっさと建物の中に行きたい。確か次の授業はパソコンだったはず。パソコン室にはクーラーが付いている。日陰とはいえもう朝からずっとこんなところにいるんだからいつ焼け死んでもおかしくはない。


「ここがいい」


ああ、そうだった。高杉は人がたくさんいる騒がしい場所を好まない。そのくせ寂しがり屋なもんだからいつも俺が側にいたんだ。今日だって登校早々に"ひじかた"とクイッとシャツの裾を引っ張られ屋上に連れて来られた。仕方なく授業も出ずに付き合っていたのだが、流石に限界だ。


「死ぬ、溶ける」

「教室行けば」

「お前一人でいんの?」

「誰か連れてきて」

「……」


誰か、って誰だよ。そもそもこんなとこ誰も来ねぇだろ。つーか誰でも良いのかよ。今までいつだって俺が一緒にいたもんだからその言葉が少しショックというか何というか、やっぱむかつく。


「あっそ、じゃあな。焼け死んでも知らねぇぞ」


吐き捨てるように言い放ち灼熱のそこから出る。やっぱり屋内は多少なりとも涼しい。それでも何だかモヤモヤするから適当に廊下を歩いた。俺だって騒がしいところは好きじゃない、でも暑いのはもっと嫌いだ。なのに朝から付き合ってやっていたのはアイツがいつも一番に俺を誘うから。サボリも弁当も、体育も行事もなんだって一番に。いや、もう自然に、当たり前に高杉はいつも隣にいたんだ。


「…ったく、」


昨日買ったジュースの釣り銭がまだポケットにあることを思い出した俺は、くるりと踵を返し自販機に向かった。目当てのアイスを二つ買って再び蒸し暑い屋上へ。何でこんなことしてるんだか。

扉を開けると身体中を熱気が襲う。しかし時折涼しい風が吹いていることに気付き少し安堵した。高杉は仰向けになって寝ている。全く、世間では熱中症に注意しろと話題になっているというのに。今朝の若手アナウンサーの言葉を思い出し溜め息混じりに近寄るとその白いおでこにアイスを当ててやった。


「うわ、」

「やるよ」

「土方…?冷てぇ」


寝転がったままの高杉に無理やりアイスを渡すと素直に受け取り身体を起こした。相も変わらず袋だけを俺に押し付けるのはいつもの光景だ。アイスが歯に染みる。


「暑ィー」

「……」

「なんだよ。アイスは暑いとこで食う方が上手いんだよ」

「ふん、帰ってくると思ったぜ」


なんだ、お見逃しか。ニヤリと笑ったその首もとにはじとりと汗が滲んでいた。もしかすると高杉は俺を待っていたんじゃないか。なんて、だとしたら何だか笑える。


((2人して何を我慢してんだか))






*7/7誤字修正しました。