暖かい陽気に包まれた昼下がり。季節はもうすぐ夏だ。梅雨も終わりを迎え、うざったい湿気から解放されたばかりのこの時期だが日々暑さに拍車が掛かっている気がする。
そんな時にますます暑苦しくなるような、とにかく面倒臭そうなことを言い出した男がいた。


「少年探偵団がやりたい」

「はァ?」


高杉は怠そうに顔を上げる。やっと午前の授業が終わり、さっそく空腹を満たそうと薄っぺらいカバンから今朝買っておいた焼そばパンを出そうとした時だった。


「知らない?少年探偵団」

「え、コナ○的な?」

「そうそう。コナ○的なアレだよ」


どこかの少年漫画を読んだのかテレビを観たのかは知らないが全く意図が掴めない。神威は少々好奇心旺盛で、突き詰めて物事を考える節がありそれが非常に面倒臭いと高杉は思う。探偵団というのだからもしかして自分も入っているのだろうか。ただ探偵ごっこがやりたいだけだったら他を当たってくれと願いつつ一応話を聞いてやる。


「いや…お前どっちかっつーと青年だし、どっちかっつーと身体は大人、頭脳は子供だろ」

「でもアレ、コナ○以外身体も頭脳も子供だよ?」

「いや事件解決してんのコナ○だから。頭脳が大人の方だから」


そう、少年探偵団といえど主人公の頭脳は大人、それもかなり推理力に長けている。中学の数学ですら満足でない神威に探偵などできるはずがない。まあどうせすぐ飽きるだろう、高杉はそんな事を考えながら焼そばパンにかぶりついた。


「えー、やろうよ。ギザジューあげるし」

「別に集めてねェよ」

「じゃあ高杉の財布のお金を全部10円玉に変えちゃうぞ」

「うわそれ地味に最強の嫌がらせだな」


「よし、やろうぜィ」

「やんのかよ。つかどっから出できやがった!」


突然ヌッと姿を現せたのは沖田だ。高杉の驚きには何のその。購買に行っていたのだろう、手にはパンとパックジュースが握られている。


「なんか面白そうじゃねェか」

「さすが沖田だね。高杉もやるでしょ?」

「もう勝手にしてくれ…」



そうしてやる気満々の神威が連れ出したのは自身らの溜まり場となっている屋上。まずは練習をしてから、と考えていた。


「じゃあ沖田からね」

「犯人は高杉なー」

「わーったよ」


自分は監督だと言わんばかりの態度で腕を組み、役を指名する神威。沖田はフェンスに手を当て演技に集中する。役を降ろしているらしい。



「…高杉、お前が犯人てことは分かってんでィ。……じっちゃんの名にかけて!」


((金○一…?))


「くそっ、何故分かった!」

「ケンモチ警部と行動を共にし、アリバイ工作したまでは良かったんだがねィ。決定的瞬間を、ミユキが見てたんでィ!」


((いやいや登場人物まで完全に金○一じゃん。頭脳も身体も大人じゃん))


「おのれミユキィィ!!」

「ストーーップ!!」


神威の叫びに白熱していた演技を中止する沖田と高杉。いいところでストップがかかり少々不満気だ。


「もう終わりかよ」

「話はこれからでィ」

「ちょっと、何で金○一になってんのさ。しかも高杉めっちゃ張り切ってるし意味分かんないから。俺がやりたいのはコナ○だから」

「すまねェ。金○一の名ゼリフが言ってみたかったんでィ」

「悪ィ」

「もう、じゃあ次は高杉ね」

「あァ」


つーかそんなにやりたいなら自分がやれば良くね?と思いながら高杉は位置に立つ。手はやはりフェンスに当てて。



「…今日は随分とでけぇ雲が出てんなァ。ラピュタでも見えそうな空だと思っていたが、とんだ不届き者が降りてきやがった。ムスカ」


((え、ムスカ?))


「ブハハハハ!人がゴミのようだ!」

「クク、ひっかかったな」

「しまった…!こんのクソガキめぇ!」

「ふん、犯人は必ず乗ってくるんだ。お前のようにな!」


((何その絶対的な自信。しかも何で犯人はみんなムスカだと思ってんの?それともムスカを当てるゲームなの?))


「フン、こうなったら全て壊してやるわ!ブハハハハ!」

「そうはさせねェ。…バルス!!」

「うん、それが言いたかったんだろうなとは思ってたよ。ジブリ好きも大概にしなよお前ら。録画ビデオ消しちゃうぞ」

「つーかお前がやれよ神威」

「いや、もういいや。なんか飽きちゃった」

「「あっそ」」