*アホです





最近、神威が乙女化している気がする。



―高杉!プリクラ撮ろ?

―みてみてーこのアップリケ、可愛くない?

―爪折れちゃった。最低ー



などなど、思い出すのもおぞましい言葉のオンパレードだ。
今だって、


「何してんだ?」

「枝毛数えてるー」


気がする、ではなく完全に乙女化していた。
あの暴力的な、あの喧嘩と食べ物にしか興味のない男が、ちまちまと枝毛を数えながらちゃんとお手入れしなきゃ、などとほざいているのだ。
外見はいつもニコニコと幼い顔立ちの優男であるが、その内側にあるどす黒いものを知っている俺としては恐ろしくて仕方がない。何かの予兆なのだろうか。クラスの女子たちは最初こそ驚いていたものの、外見と内面が一致している今の神威をすんなり受け入れたらしく、時々連れ立ってガールズトークに夢中だ。女子の順応力の高さを尊敬する。

取り敢えず俺は沖田に相談することにした。


「沖田ァ」

「あー?」

「え……おま、それ」

「これが何でィ?」


…アップリケェェー!!!
おいおいどうなってやがる。何で沖田までアップリケ付けようとしてんだよ!しかも大事な剣道の胴着に!敵の目を欺く作戦か?いやいや恥ずかしすぎるだろ。つか今どきアップリケ付ける女子もそういねェよ!


「沖田、どう?できたー?」

「いや、ここが難しくてねィ」

「ココはもうちょっとこうすると良いよ」

「すげぇ!さすが神威でィ!」

「あはは〜」


あはは、何コレどうなってんの?俺がおかしいの?こんなのコイツらじゃない。コイツらはもっとこう、腹黒くて人を人とも思わない冷血さと極悪非道……いや、むしろ今の方が平和で良いんじゃないだろうか。理不尽な被害もなくなる訳だし。いやしかし絡み辛くて仕方がない。いやでも……


「高杉?どうした?」

「ひ、ひじかたぁ!」

「ちょ、おい!…大丈夫か?」


あ、やべ。思わず抱き付いちまった。フラフラと教室をさ迷っていたら比較的まともな友人が現れたので感極まってしまった。そうだ、土方に相談してみよう。確か沖田とは幼馴染みだし何か知ってるかもしれない。取り敢えず現状を説明する。


「なァ、沖田が胴着にアップリケ付けてんだよ」

「アップリケ?……あいつ!」

「土方?あっ、おい!」


苦い顔をして沖田の元へ歩いて行く土方を目で追う。怒ってるのか?神威同様、乙女思考になってしまった幼馴染みを止めに行くのだろうか。俺はアイツらの目が覚めるかもしれないと土方に淡い期待を抱く。


「コラァ総悟!お前まだアップリケ付けてなかったのか!今日みんなでお揃いの胴着着て練習するって言ったよな!?」


ええええ。
え、お揃い?つーか沖田にアップリケやらせてんのお前かァァ!!何で土方まで……クソ!何なんだ!どうなってんだよ!


「いやァ、ここが中々うまくいかなくて神威に教えて貰ってたんでィ」

「だーかーら、近藤さんのアップリケ講座受けとけっつっただろうが!できてねぇのお前だけだかんな!」


ちょ、何だよアップリケ講座って!しかも近藤がやってんのかよ!
まさか、と思い教室を見渡す。やっぱりだ。アイツも、コイツも、男子生徒全員がどこかしらにアップリケを付けていた。
目前では沖田と神威が楽しそうに笑う。

何で、…何で俺は誘われてねェんだァァ!!








***


「っていう夢を見た」

「高杉って本当に俺らのこと大好きだね」

「よし、プリクラ撮りに行くぜィ」

「………」