「高杉、新記録でィ。45分間1ミリも動かなかったぜィ」

「んだそれ?」

「授業中チョー綺麗な姿勢で寝てたっしょ?」

「お前らいっつも人のこと観察してんじゃねェよ」

「だって呼んでも起きないんだもん」


ぶぅ、と頬を膨らませる神威にイラついた高杉は自身の指で思い切りその原因をぶっ潰した。
瞬間、ピロリロリーンとふざけた音がしたので沖田の野郎が写メでも撮ったのだろう。コイツは人の恥ずかしい瞬間を画像に納めて、脅しに使ったり他人にバラまく悪趣味を持っている。とりあえず目の前の被害者に合掌。


「で、何か用だったのか」

「ああ、今日はどうすんでィ?」


退屈で仕方のない5限目の終わり。まあ授業は全て退屈なのだが。といっても基本学校生活を寝て過ごしている高杉の1日は睡眠か休み時間で形成されている。それでも何故か頭が良く勉強はできるので教師たちも黙認しているのが現状だ。沖田と神威はなんやかんやで起きてはいるが、一方は最近ますます呪いの儀式とやらに余念がないし、もう一方は食べることしか考えていないので同じこと。そんな仲良し三人組は学校はもちろん放課後も一緒に連れだって遊んでいる。


「俺新しくできたアイスクリームのお店行きたーい」

「女子か」

「なんだよ、高杉にはもうマロンフロートの割引券あーげない」


ヒラヒラと、どこで手に入れたのか新店オープンと書かれたアイスの割引券を踊らせる神威。


「フン、んなもんいるか」

「俺このイチゴのやつねィ」

「お前もかよ!」






****


「いらっしゃいませー」


結局神威の案が採用され本日の溜まり場に決定したアイスクリームショップ。高杉は不本意でありながらも、ぐいぐいと腕をひっぱる親友を止めることはできなかった。別に行きたいところもないので好きにさせていたが、あの時全力で否定すれば良かったと早くも後悔することになる。


「あ、銀八」

「げ」

「本当だー」


席を探す沖田が見つけたのは銀髪の担任教師。普段死んでいる目も色とりどりのアイスを前に心なしか輝いている気がする。そういえば甘糖だった銀八がここにいるのは極自然なことだ。しかし放課後、生徒よりも先にこの場所に到着しバクバクとアイスを口に運んでいるのは如何なものか。放課後ってもっとやることあるんじゃないのか。あ、目合った。


「ヤベ、今日の金曜ロードショー魔女宅だった。俺帰るわ」

「ちょっと待ったァァ!魔女宅はアレだよ、明日の土曜プレミアムだよ!あれ、日曜洋画劇場だったかも?うん、そんな感じ」

「おい、ジブリは金曜ロードショーって決まってんだよ。つかくっ付くな天パ!」

「高杉、魔女宅は録画してあるから安心しろィ」


目ざとく高杉を発見した銀八はいつの間にやら会話に参加し晋ちゃあんと気色の悪い声で抱き付く。
高杉が銀八に会いたくない理由である。学校でもこんな調子なのだが担任なので嫌でも顔を合わせてしまう。自由になった放課後にまで変態教師に付き合わされるのは御免だった、のに。


「へぇ、お前ってジブリ好きなんだな。何かめっさ可愛いんですけどォ」

「せんせー、それはもしもの時の為にとってある弱みなんで秘密ですぜィ」

「もしもの時ってどんな時だコラ。つか別に好きじゃねェし」

「このイチゴとパイン7つね」


銀八によりまんまとソファーに引きずり込まれた高杉。隣にはやたらとすり寄ってくる担任がいて、向かいでは神威が信じられない量のアイスやデザートを注文していく。引きつった笑みを向ける店員の心中を察しつつ、高杉は何となしに銀八の前にあるさくらんぼを摘んだ。


「ところで先生、学校は良いんですかィ?」

「いいのいいの、校長バカだから」


何が良いんだろう。甚だ疑問だが校長がバカだという件に関しては沖田たちも同意を示すので深くは追及しない。その代わり、高杉はクソ天パ!クビになれ!などの物騒な言葉を繰り返し銀八に浴びせていた。


「さくらんぼ食いながら言われても可愛いだけだからね」


ピロリロリーン♪


「先生、高杉のさくらんぼショットあげるんで今度のテスト宜しくでさァ」

「沖田ァ!何やってんだ携帯貸せ!」


いつも悪いねぇ、なんて言いながら交渉成立させている親友と担任。つかいつもって何だよ。勉強嫌いの沖田の成績が最近良くなっていたのはこういう事だったのか。ありえない、何がって全部がありえない。今まで一体いくつ自分の盗撮写真がこの教師の元へ送られていったのか、恐ろしすぎて聞けやしなかった。高杉は目の前のどす黒い笑みを浮かべる少年を見て、もしかしたら写真だけじゃないのかもしれないと悟る。


「沖田そんなことしてたの?じゃあ俺もアンタに高杉のあーんなモノやこーんなモノあげるからマケてよ」


ダメだ。もうこいつら親友でもなんでもない。しかもあーんなモノやこーんなモノって何だよ!死ねよ!もうみんな死んでくれよ!今まで我慢していたがもう限界だ。高杉は立ち上がった。


「お前ら……絶交だかんなっ!」

「…………」


ズビシ、と指を指し大声で宣言した本人は言ってやった!とばかりに清々しい表情である。三人は突然の出来事に目を丸くして声も出ない。


「え…絶交って、……ぷっ…」

「ぶはっ…沖田くん、先生せっかく我慢してたのに、ぷっ」

「な、何で笑ってんだ!」

「あはは!高杉ってやっぱ面白いね」


次々に笑い出すものだから高杉は意味が分からなかった。真剣に言ったつもりなのに、被害者の自分に謝って貰うことはあっても笑われる覚えはない。


「だって、っぷ…普段口悪いのにいざって時に出たのが絶交とは…くくっ」

「そんだけ高杉にとっての究極が絶交って事でさァ…ぷっ」

「あは、真剣な顔して小学生みたいなこと言うんだもん、笑っちゃう」

「な、」


そんなに俺たちと一緒にいたいんだね、なんて言われ高杉は真っ赤な顔で自分の言動を恥じた。ここまで恥ずかしかったことは今まで一度もない。周りの視線が高杉を突き刺す。


「今の"絶好"の瞬間撮り逃したからもっかい言ってみろィ」

「……誰が言うかボケェ!!」






((しゃーなしずっと側にいてやるよ))

((うるさい黙れ死ね))






*ベタだけど高杉に絶交って言わせたかった…!