*ごっちんとさがるん12345




「あ"ーひま!ひまひまでまひまひ!」

「いやまひまひって」

「だって超ひまジャン!ごっちん」

「誰がごっちんでィ、さがるん」


まるでスーパーでだだをこねる幼児のようにジタバタする山崎と、食後で膨らむ腹をさすりながら突っ込む総悟。
昼休みのこと。かったるい授業から解放され屋上で弁当を食べた後、二人で空を仰ぎながら昼寝をするのが毎日の決まり。
しかし山崎は、そんな繰り返される何の変哲もない日常に飽き飽きしているようだ。


「あー何か面白いことねェかなぁ?」

「土方いじめも飽きたしねィ」

「うんでもやっぱ暇だしマヨ先輩いじめてくっか」

「そういやまだやってねェ作戦がありやしたな、さがるん」

「そうでしたな、ごっちん」


ウッヒョー!とイニシャルも性格もSな仲良し二人組は足早に階段を駆け下りた。そして迷うことなく2年の教室へ。


「「ひーじーかーたーせーんーぱーい!」」


「……げ」

「お!総悟にザキ!どうしたんだ?」

「「あ、こんどーさーん!」」


パックジュースのストローを噛み、瞬時に眉を寄せた土方をスルーして両手を広げ近藤の元へ駆け寄るSコンビ。おーよしよし、とまるで親子のようにじゃれ合う三人を見て、土方はさらに眉間のシワを厚くした。


「さっきからハモってんじゃねェよ。つか何しにきた」

「嫌だなぁ、用がなきゃ来ちゃいけねェんですかィ?」

「おめェらが用もなしに来る訳ねェだろ」

「こんどーサンに会いに来たんですよ!な、ごっちん」

「あぁ、さがるん」

「何その呼び方キモ!つかおもっきし俺の名前呼んでただろーが」

「「自意識過剰キモ!」」

「殴っていい?殴っていーい!?」


剣道部の先輩後輩にあたる四人の関係は、中学から始まった。その頃からいたずらの絶えなかった総悟と山崎を叱るのは、たいてい土方だ。まあ、半分以上の事件の被害を受けていた張本人なのだから当たり前なのだが。近藤はそれを優しく見守る父親のような存在。しかし道を外しそうになれば強い意志でまっすぐ正す。そんな彼を三人はとても尊敬していた。だからいつまで経っても近藤さんは近藤さんなのだ。


「まぁまぁ、落ち着けトシ。せっかく会いに来てくれたんだから。それより総悟とザキは本当に仲が良いなぁ!」

「当たり前でィ。ディズニーでイッツァスモールワールドしちゃう仲でさァ」

「どんな仲だよ」

「あ?土方は一人でぺーさんのハニーハントでもしてろィ」

「それペーじゃなくてプー!笑いながら写真撮るってどんなアトラクションだ!」

「それペーじゃなくてパーでさ」

「うっせェな!ややこしいんだよ!」

「トシ、ペーさんとパーさんを間違っちゃいかんよ。失礼でしょ!」

「そうでさァ、ペーとパーに謝れィ。ちなみに土方さんはもうハニーハントする資格はありやせん」

「え!俺は?俺もペーさんとパーさんとハニーハントしたい!」

「オィィ!!もうそれプーさんのポジション完全にペーとパーに取られてんじゃねェか!あいつら全く関係ないからね?ハニーじゃなくてカメラと誕生日にしか興味ないからね!?」


ギャアギャアと三人の白熱した言い争いの横で、山崎は土方を陥れる為の作戦を実行していた。地味すぎて全く気付かれていない。
作戦はただ、土方の弁当にかけられた大量のマヨの中に下剤を投入するというもの。しかしそれだけでは面白くないので、わたパチのパチパチするやつと、なんかそこら辺にあった水のりを入れてやった。

それを横目でチラリと確認した総悟は、ニヤリと笑って話を切り上げた。


「それじゃあ昼休み終わるんで帰りまさァ。近藤さん、また」

「こんどーサン!またね!」

「俺もいるんだけどォォ!!」


きゃっきゃっと帰って行く後輩組を見て舌打ちをする土方。その後すぐに起こる地獄を彼はまだ知らない。

その日の放課後、当然部活に出れるはずもなくトイレで苦しむ土方の頭上に、笑いながらカメラを構えるペーとパーのような総悟と山崎の姿があった。