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「なァ、退って土方のこと好きなのか?」


登校途中、仲良く歩く高杉と山崎の元に銀時が足早に駆け寄る。それは誰かが遅刻しない限り毎朝繰り返される光景で、銀時が朝の挨拶と言わんばかりに高杉にすり寄り殴られる、これもまた常だ。そんな二人をよそに、山崎は目の前の公園に佇む人物を見つけ、嬉しそうに駆け寄って行く。
そこで高杉から出たのが先ほどの言葉である。銀時は視線を巡らせ、きゃっきゃっと効果音を垂れ流す山崎といつもより幾分か目つきの和らいだ土方を見やる。


「ちょ、晋ちゃん毎日アレ見て気付かねェの?ほんと鈍感だな」

「…………」


何を今更、そう言えばちょっとばかし自尊心の高い恋人に無言で睨まれ銀時は焦った。


「ま、まァ近くに居すぎると気付かないこともあるよな!愛犬の成長とか、」

「…ふん」

「あ、ちなみに土方も山崎にゾッコンだぜありゃあ」

「まじか」


確かに、山崎を見る土方の目は穏やかであるし、毎朝こうやって公園で待っているのも山崎目当てなのかもしれない。そう考えると今までの生活で思い当たる節はたくさんあった。何故気が付かなかったのか。高杉は自分の鈍感さに呆れるとともに、何も考えていないように見える銀時が自分よりも先に友人の気持ちを見抜いていたことにムッとする。そして土方に自らの頭をポンポンされ嬉しそうに顔を赤くする親友を見てたまらない気持ちになった。

山崎とは幼馴染みだ。小さい頃からしんすけ、しんすけと懐いてくる彼が可愛かったし、誰よりも大事な存在になっていた。だからこそ山崎が自分から離れてしまうのは少し寂しい気もするが、彼には幸せになってもらいたい。土方だって大切な友人の一人だ、高杉は応援してやりたいと思った。


「彼奴らくっ付かねェの?」

「山崎にその勇気があるとも思えねーし、土方はヘタレだからなー。いじらしくて仕方ねェよ」

「ふーん」

「晋助!銀時くん!早く行くよー?」


山崎が振り返り、なかなか此方へ来ない二人を呼んだ。俺たち忘れられてなかったのか、と思いながら前へ進もうとした銀時より先に、真面目な顔をした高杉がズンズンと歩いて行く。不思議に思いながらも銀時も後を追った。


「おい、退」

「ん?どしたの、晋助」


首を傾げ自分を見る山崎の腕を引っ張り、高杉は疑問符を浮かべる相手の唇に自分のそれを押し付けた。


「んっ……」


何秒経っただろうか。後ろで悲鳴を上げるだろうアイツを想像し、細い目を見開いたまま固まる土方をちらりと盗み見る。そろそろ本気でヤバそうな山崎を離してやると、驚きのあまり真っ赤な顔をしてその場にへたり込んでしまった。土方はというと、未だにアホみたいに口をあんぐり開けたまま突っ立っているだけである。高杉はそれを得意げに見た。どこか正義感すら漂っている。


「キャアァァァァ!!!」

「たっ…高杉ィィ!俺の山崎に何しやがる!?」


銀時の叫び声を聞き漸く我に返った土方が高杉に詰め寄るが、目の前の男はニヤリと笑ってみせた。


「俺の、山崎?」

「えっ?いや、その…」

「晋助ェェ!!何してんだコノヤロォォ!!」


両手の指をビシッと伸ばし、猛ダッシュで走って来た恋人を一撃で地面に貼り付けた高杉は再び土方に問う。


「誰の、山崎だって?」

「おっ…俺の山崎だ!!」


「だとよ、退」


真っ赤な顔をした土方が意を決して放った言葉。それにますます機嫌をよくした高杉は、未だに放心状態のまま地面に縫い付けられている山崎に目線を合わす。


「…へ?」

「土方ァ、コイツ泣かせたら許さねェからな」


高杉はそう宣告すると、地面に転がる銀時を行くぞと一蹴りし歩き出した。





***


「お前さ、覚悟できてんだろうな」

「あ?うまくいっただろうが」

「大胆すぎんだよ!俺の気持ちも考えろっつの」


ぶぅ、とあからさまに拗ねて見せるが高杉は動じない。全く、男前な彼女を持ったものだ。彼女なんて言ったら殺されるから口にはしないが。銀時はあれやこれやと考えを巡らせ、ますますモヤモヤする気持ちをどうにか抑え歩く。


「銀時ィ」

「なんだよ」

「お前はいつでもできんだろ?」


ほら、と誘うように笑う高杉に抵抗する理由もなく、誰もいないことを確認しその可愛い唇に吸い付いた。


「ったく、小悪魔め」


銀時はその後、遅れて教室に姿を表した土方と山崎を見て高杉の作戦が見事に成功したのだと悟り心の中で祝福した。