○月×日
にっかになっている土方の呪いのぎしきがもうすぐおわる。つぎはだれにしようかな。しんいりのじみなやつにしようかな。どうおもいますかィ?
おきたそうご


「………」

「おいジミー?どうしたんだよ白目むいて。ご臨終ごっこですかー?」


お母さん、どうやらここの幼稚園は少し変わっています。
先輩の先生はいつもだるそうでいい加減だし、子供たちの中には気を抜くと本気でヤバい子もいます。


「うわヤべェ。超ヤベェよジミー。何がヤバいって超ヤベェよ」

「さっきから何ですか何がヤベェんですか!」

「晋ちゃんの日記だっつの。今日も超可愛いからねコレ」


坂田先生は目をハートマークに変身させ、日記帳を見せてくれた。
なになに?

○月×日
きょうはお花をつみました。そうちゃんにおうかんをつくってあげました。おうじさまみたいでした。こんどはぎんせんせーとさがるせんせーにもつくりたいです。
たかすぎしんすけ


「先生っ日記に俺が出てます!俺が!」

「うっせーよどうせお前は俺のついでだろ。晋ちゃんは渡しません!」


…全くもう、何でそうなるんだ。
最初は女の子だと思ってたけど実は男の子だった晋助くん。みんなが騒ぐのも分かるくらい可愛くて優しい子だ。そして今の俺の唯一の癒やしでもある。


“さがるせんせっ!”

あー今日も可愛かったです。


「ちょ、こいつは違う意味でヤベェよ。つか真のヤベェはこいつの為にある言葉だよ、ほれ」

「ん?」


○月×日
きょうのきろくは6本だった。きのうより2本すくない。なさけねェ。し○ごママにかおむけできねェ。むねはっておてんとうさんみあげる日はくるのだろうか。
土方とうしろう


何コレ、もしかしてマヨの事言ってんの?オイオイ日記をマヨの記録にしてんじゃねェよ!しかもし○ごママって古!本人でもそんなに吸わねぇわ!コイツどんだけマヨを過大評価してんだよただの調味料だよ!



***

「トシ、これなんほんめ?」

「3だ」


お昼の時間、俺は隣の晋助くんと十四郎くんの会話で今日の彼のマヨ数を確認し、この調子でいくとまた一昨日の記録には届かないんじゃないか、なんて心配してしまっている自分をお茶でごまかした。


「アンタいつから犬になったんでィ。まぁおれの犬にはかわりねェが」

「だれがテメェの犬だァァ!」


どうやら総悟くんと十四郎くんは仲が良くないみたい。でもいつも一緒にいるんだよなぁ。


「じゃあおれのドレイになる?」

「ならねェよ!」


神威くんは相変わらず言動が激しい。総悟くんとは気が合うみたいで、よく二人で組んで悪さをしている。


「あっぎんせんせー!」


嬉しそうに走って行く晋助くんを視線で追うと、そこには坂田先生がいた。いつもは眠たそうな目を晋助くんに呼ばれた事でこれでもかと輝かせている。それを見て一緒にお弁当を食べていた神威くんと十四郎くんがすぐさま駆け出した。


「坂田先生、人気者だねー」

「ちがう。あれは晋助のごえい」

「護衛?」

「あいつかわいくてすなおだからあぶないんでィ。とくにしらがせんせい」


白髪先生て。まあ、確かに坂田先生は色々と危ないかもだけど。本当にみんな晋助くんが好きなんだなぁ。そういえばいつも誰かしら隣に居たけど、守ってたのか。


「あはは…、総悟くんは行かないの?」

「………おれは」

「うん?」

「おれはいい。晋助はしらがといるとしあわせそうだから」


おや?いつもと違って弱気だ。
総悟くんはちょっとひねくれてるけど、本当は良い子なのかもしれない。好きな子の幸せを願える、心の優しい子。


「ね、坂田先生に取られちゃっても良いの?」

「アンタにかんけいないし」


はは、意地張っちゃって。初めて見る子供らしい一面だ。なんだが応援したくなっちゃう。ふと、今朝読んだ日記を思い出した。


「実はね、内緒だよ?晋助くんの日記にね、――」


ごにょごにょ。

“おうじさまみたいでした”
そう話すとパァっと立ち上がる総悟くん。あ、ほっぺ赤い。いつもこう素直だと可愛いんだけどなぁ。


「…っマジですかィ!」

「マジですよ。良かったねぇ」

「べ、べつにさいしょからまけるきはしなかったけどな!」

「あはは、はいはい」


お母さん、この幼稚園は少し変わっています。先輩の先生は色々と危ないし、子供たちは相変わらずやんちゃでハラハラするし。でも、何とかやっていけそうです。みんな本当に良い子達ばかりで、最近はザキ!ザキ!なんて呼ばれて結構楽しいんですよ。


「ザキィ」

「あ、総悟くんどうしたの?」

「おれのモンにすんの、あんたにしようかな」

「え?」

「ライバルもすくなそうだしねィ」

「………え?」


お母さん、やっぱりこの幼稚園はどこかおかしいです。