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最近特定の人物とのエンカウント率が高い。高い、というかむしろバグの領域だ。今までたいして重要人物と出会うことがなかったからそう思うのかもしれないが、それにしたって三日に一度は会うのはおかしいだろう。それも見かけるだけならまだしも、話しかけてきたりするんだからこれはバグだ。お客様サポートセンターに連絡しなくてはならないくらいだ。
自意識過剰かもしれないが、最近視線を感じる。コモルーやキルリアもそう思うのか時々後ろを振り返り、何かを探しているようだ。ストーカーなんているはずもないので、私が自意識過剰に陥っているだけだろう。そうに違いない。
だから、最近特定の人物がやたら視界のはしに映ったりするのも気のせいだ。チャンピオン仕事しろ……おっと失礼、チャンピオンがそんなことするわけがない。たまたま似ているだけで、自意識過剰な私が勘違いしているだけだ。

今日は久々に町から外れた洞窟までやってきて修行をしていた。岩タイプや地面タイプに強いヒンバスからしたら楽かもしれないが、コモルーは効果抜群の技を覚えていないからすこし厳しい。その上コモルーが大嫌いなズバットがいるため、いつもより多く野生のポケモン戦っていた。
疲れたので洞窟から出ようとすると、ここぞとばかりに怪獣マニアに勝負を挑まれた。売られたバトルは買う主義ではないので逃げようとしたが、捕まってしまった。しかも鋼タイプのクチートを出してきて、コモルーの火の粉しか炎タイプの技を覚えていないので苦戦を強いられた。
火の粉でごり押してなんとか勝って洞窟から出たときには、私もコモルー達も疲れきっていた。ふらふらしながらもポケモンセンターに向かう途中、視界に見覚えのある人物が映ったが気のせいだったかもしれない。辺りを見回したとき、それらしい人物は見当たらなかった。

コモルー達をジョーイさんに預けて、私は一人待合室兼カフェの二人がけのテーブルで紅茶を飲んでいた。紅茶やジュースといった飲み物と、クッキーなどのちょっとしたお茶菓子はただでもらえるのが魅力的だ。味が薄かったりすることもないし、さすがポケモンセンターと言いたい。
のんびりと紅茶を飲んでいると、空いていた目の前の席に誰かが座った。視線を向けると、最近やたらエンカウント率がバグっているダイゴさんがいた。

「こんにちはダイゴさん」

「こんにちはナナシ……」

何故か語尾に間をつくることが多いダイゴさんとは、とある洞窟で出会った。ボスゴドラと何故か遭遇してしまい涙目になっていたところを、ダイゴさんが助けてくれた。最近はやたら視界のはしに映るしエンカウント率がバグっているが、彼は私の命の恩人だ。それにしても何故あの時彼は洞窟にいたのだろうか、あの洞窟には石がないとこの前彼自身が言っていた。
ダイゴさんはテーブルに肘を乗せ指を軽く組ながらにこにことしている。ダイゴさんのイケメンっぷりにまわりのお姉様方が騒ぎだし、私に視線がささる。そりゃあ何故こんなちんちくりんが相席しているんだと思うよね、私もそう思っているから安心しろ。
お姉様方の声にいっさいの反応を示さずに、ダイゴさんはそういえばと言った感じで話始めた。

「さっき怪獣マニアと戦っていたよね」

「そうですけど、なんで知ってるんですか?」

「……疲れているところに勝負を挑んでくるのはあまり誉められたことじゃないよね」

スルーされた、だと……? 何故知っているのかを問い詰めたりはしないが、こうやってスルーされればされるほど気になってしまう。ダイゴさんには話をはぐらかされることが多い。しかし、気になるからと言ってつつきすぎたら危険だと私の中の本能が察知している。絶対危ない、根拠は無いけど。
ダイゴさんは目を細め、じっと私の目を見つめる。イケメンに見つめられるなんて頬を染めるようなシチュエーションだが、ダイゴさんの目に光が宿っていないのに気づいて背筋がゾッとする。何これ怖い。

「ナナシちゃんはまだ弱いんだから頼ってくれていいんだよって、さんざん言ったよね? さっきも疲れているのに怪獣マニアと戦っているのを見て、こっちが冷や汗かいたよ」

「あ……はい、ごめんなさい」

うっせえ炎タイプぶつけんぞ、とは言い返せなかった。それにしてもまだ弱いとは失礼な、たしかに弱いけど。
にこにこと笑みを浮かべているダイゴさんの目は笑っていない。目線を合わせたくなくて紅茶が入ったコップを見つめていたら、ダイゴさんは手を伸ばして私の頭にそっと触れた。壊れ物を扱うような手つきにときめくこと無く、何やってんだこいつと思ってしまった。

「次はちゃんと僕を呼んでね。チャンピオンであるこのダイゴならあれくらいはすぐに終わらせられるから」

ちゃっかり自慢するなよ。私、強くなったら四天王に挑んでダイゴさん倒すんだ……。
名残惜しそうに私の頭を撫でていた手が離れ、もう行かなくちゃと言いながら席を立った。お見送りしようと席を立とうとしたら、ダイゴさんに制されたので座り直す。

「また会おう」

「はい、お元気で」

手をふって去っていったダイゴさんの後ろ姿を見送ってから、疲労困憊な私はテーブルに突っ伏した。いやあ、疲れた。ダイゴさんと会話していると精神的ダメージをじりじりと食らう。彼が直接何かしてくるわけではないが、見張られているという感覚が常にして気が休まる時がない。
テーブルに突っ伏したままうだうだとしていると、誰かが扉を乱暴に開け飛び込んできた。腕には気を失い目を回しているクチートがいて、そのクチートよりもトレーナーの方が傷を負っている。
なんだか嫌な予感がして、逃げるように受付でモンスターボールを受け取りポケモンセンターを後にした。あのトレーナー、さっき戦った怪獣マニアだったよな……深く考えないようにしよう。






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