笹の葉が夜風に吹かれてさらさらと揺れる。折り紙で作られた飾りと願い事をかけられた短冊をみて前の世界を思い出してしまい苦笑する、私も馬鹿なことを短冊に書いていたな
今日は七夕、年に一度織姫と彦星が天の川を渡って会える日。こちらでも同じらしく、ポケモンセンターには笹が飾られ子供たちが願いを託していた。空を見上げると雲ひとつ無く星がきれいに輝いていて、あれが天の川なのかなと星の群れを見ながらぼんやりと考えていた あの短冊に願いを書いて本当に叶うのならば人類は幸せになるだろう。本当に叶えたいのならば自分の力でどうにかしなければならない、織姫と彦星はそんなに優しくはないだろう。叶うわけ無いとわかっていて書くのは、人間の性なのだろうか、とそこまで考えて思考を中断した。わざわざこんな日にそんな事を考えなくてもいいだろう
夜の海辺は暗く、危険だが今日は星明かりに照らされて穏やかな波の様子が見える。腰に巻いているベルトにてを伸ばし付いているモンスターボールをつかみ空に放つ。赤い光に包まれて出てきた三匹は空を見上げ星を見てはしゃぎはじめた。どうやら三匹も今日が七夕だということを理解しているらしい 一緒に星を眺めていたら、気づいたらタツベイがいなくなっていた。あの子は自由気ままに生きてるから、私もできる限りは自由に遊ばせておいてやりたい。ポケモンを誘拐だなんて、こんな祭りの日にそんな目立つことをやる人はいないだろうから大丈夫だろう そういえば、七夕といったらジラーチだけど私は会えないだろうな。というか、そもそも千年に一度のその一度の時に合わなそうだ。だいたいああいうのは主人公に合わせて起きるものだし、脇役でミニスカートな私には縁の無い存在だろう。でもジラーチ会ってみたいな、願いを叶えてもらうとかどうでもいいから直接見てみたい。だってかわいいじゃないか
空を見上げて痛くなった首を手でさすっていると、タツベイが手になにかを持って帰ってきた。食べ物でももらったのだろう、口のまわりにかすがついている 近寄って来たタツベイの口のまわりをふいてやりながら、渡されたものを見てみるとそれは黄緑色の何も書かれていない短冊と筆ペンだった。きっと、近くにいた親切な人に渡されたのだろう。この子は食べ物とバトルくらいにしか興味を持たないから
「くれるの?」
「ぎゃう」
早く書け、といわんばかりに頭突きをして来るタツベイに苦笑を浮かべる。この子の頭突きしてくる癖はどうにかしなければならないかもしれない。今はまだいいけど、コモルーになってからやられたらけっこう痛そうだな タツベイに急かされながらも願い事を考える。昔はよくお金持ちになりたいとか書いてたけど、今はそんなものどうだっていいと思ってるからな……。願い事、元の世界に帰るとか? 帰りたいけれどそれは無理、だってこの子たちを置いてはいけないから。もしもつれていくことが可能ならばいいんだけど、まあ普通に無理だろうしね そうしたら、他に願い事なんて無い気がする。強くなるのも自分の力でならなくてはいけないし、バトルに負けたくないというものも同じこと。……本気で書くものがないなあ、この際宣言のようなものでもいいかな? 叶えてくれないでいい、自分で叶えるから
「よし……書けた」
「ぎゃう」
「ほら、見て見て」
短冊に書かれた文字をタツベイに見せると、読めているのかはわからないが嬉しそうにしている。ラルトスとヒンバスにも見せてあげると喜んでいた、さすがうちの子かわいい 書いたのならば叶えて見せなければ、私はポケモンマスターになってみせよう。この子たちと一緒に |