上から順に、ギャラドス トサキント コイキングに並べられたそれは、銀色のポールに繋がれながら風に揺られて舞っている。今日は端午の節句、こどもの日だからだろうかポケモンセンターの前には鯉のぼりが飾られていた
こっちにもこどもの日があったんだな、と思いながら無料で配られていた柏餅をベンチに座り空を泳ぐ鯉のぼりを見上げながら食べる。いやあ、優雅だな。晴れていて暖かいしちょうどいい感じに風が吹いてるから、鯉のぼりがぐったりしてない。ぐったりしている鯉のぼりは悲しくて仕方ないね、見ていて残念な気持ちになるよ
隣に座るラルトスはちまちまと柏餅を食べているが、タツベイはもう食べ終わってしまったらしく私の分を盗ろうとしてくる。柏餅くらいゆっくり食べさせておくれ、というか自分の分は食べたんだから人のを盗ろうとするんじゃない。私の分は盗ろうとするけど、とっておいてあるヒンバスの分は盗ろうとしないんだよね。いい子だけどやっぱり私の分を盗ろうとするんじゃない
柏餅をもっていない空いている方の手でタツベイを牽制していると、賑やかな声が近づいてきた。ぎいぎいと音を立てる古そうな台車を引きやって来た麦わら帽子をかぶった男性。何を売っているのかわからないが、子供たちが男性の元に近づいていく

「何売ってるんだろうね?」

「ぎゃう」

「行ってみる?」

「ぎゃう!」

ベンチから飛び降りて向かっていくタツベイの後ろを、ラルトスを抱き上げて追いかける。最近はバトルで連勝してるからそれなりにお金はある、たまには無駄遣いしたっていいだろう
近づいていくと子供たちの群でよく見えないが、どうやら小さな鯉のぼりを売っているようだった。鯉のぼりと一緒に、紙でできているのであろう兜も置かれていた
タツベイは興味が失せてしまったのか、子供たちの群から器用に抜けて先ほどまでいたベンチまで戻っていった。私も特に興味はなかったので、腕に抱いているラルトスに戻る? と問いかけると頷いたので戻ろうとした

「おっ、そこのかわいいお姉さんひとついかが!」

「……」

屋台のおじさんに呼びかけられ、子供たちからも視線を向けられる。腕の中のラルトスは私の羞恥を感じ取ったのか頬を朱に染め、タツベイはさっさとしろと急かしてくる
どうする私、どうするんだ私!



モンスターボールを高く上に投げて海に向かって赤い光とともにヒンバスを放つ、落ちてきたボールはラルトスが器用に念力で落とさずにキャッチした。ラルトスからモンスターボールを返してもらって定位置につける
相変わらず私に警戒心を抱いているのか一定の距離以上は近づかない、けど前よりはその距離も縮まっている気がする。とっておいた柏餅をヒンバスに与えると、嬉しそうに食べ始めた

「ぎゃうぎゃう」

「お、できたの?」

「ぎゃう!」

ぐいぐいと服の裾を引っ張られ、こっちを見ろと指さされた先には先ほど買ったばかりの鯉のぼりがたてられていた。一匹しか泳いでいないちゃっちいオモチャの鯉のぼり、無駄に高くて七百円もしたが買ってしまった
あのおじさんと子供たちの瞳に負けたのもあるが、ヒンバスにも鯉のぼりを見せてあげたかったからという理由もちゃんとある。もしかしたらボールの中から見えていたかもしれないが、せっかくならば近くで見せてあげたかったから

ポケセンの前で泳いでいたような立派な鯉のぼりではなく、プラスチックの棒についた一匹の小さなギャラドスが泳いでいる鯉のぼりを砂浜に棒をたてただけのもの。でも、無いよりはましだろう。気分だけでも味あわせてあげたい

「ヒンバス。タツベイが鯉のぼりたててくれたよ」

「ぎゃう」

柏餅を食べ終えたらしいヒンバスに向かってそう言うと、柏餅をあげたとき以上に喜んでくれた。小さな尾ひれを動かして、水をばしゃばしゃと飛ばしている
ヒンバスの反応に満足したのかタツベイは、満足そうにぎゃう! と鳴いてヒンバスのもとに行き水遊びを始めた。ラルトスもそれに続いて行きタツベイとヒンバスと遊び始める

ああ、買ってよかったかもしれない。水に濡れていない場所を見つけて座りながら思う。無駄使いではなかったな。三匹を眺める私の横では鯉のぼりが踊っている
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -