ラルトスが色違いだった場合





あのときは必死で気づかなかったけど、今落ち着いてみてみるとこのラルトス青ざめてない? ジョーイさんに手渡されたラルトスを抱き上げてじっと見つめていると視線を逸らされてしまった
なぜ青いのだろうか。私の記憶が正しければ、普通ラルトスってこういう色じゃなかったよね。ということは具合が悪いのだろうか……いやそれはないな、たった今までジョーイさんに預けていたのだから

だとしたら冷え性か? 冷え性で顔色悪くなるってどんだけひどい冷え性なの、冷え性ってレベルじゃないでしょう。とりあえず毛布でぐるぐると巻いて温かくしてみるけど顔色は良くならない、まだ寒いのかな? 毛布ごとラルトスを抱きしめていると、苦しいのかもぞもぞと動き出した。寒くないのかと尋ねてみると首を横に振られた、寒くないのか……

他に青ざめている理由なんてある? 人間が青ざめる時のシュチュエーションを考えてみるけれど、どれも関係なさそうなときばかり。提出日なのに課題忘れたときとか、完璧に関係ないししかも私のことだし。いやあ、あのときの私は面白いくらい青ざめていただろう、すげえどうでもいいな
他に青ざめるとき、か……。デフォルトで顔に縦線入ってるとか? 毛布と私の腕から逃げ出したラルトスの顔を見つめるけど、縦線なんて入っていない。まあ普通に考えてあり得ないからね、馬鹿だね
……あ、もしかして絵の具でもぶっかけられた? それが原因であんなにポチエナに吠えられていたのかもしれない、それなら顔に縦線説よりかは納得できるかもしれない。そうと決まればさっさと風呂に入ろう、私はシズカちゃん並にお風呂が好きなので苦ではない

いざ参ろうではないか! 手足をばたつかせ慌てているラルトス小脇に抱えて風呂場に向かう。ぴっかぴかにしてやんよっ



この人間はとても変わっていると思うのです。色違いに生まれた私は今まで両親や兄弟、見ず知らずの他人から嫌われ疎まれて虐げられて生きてきました。歩いていると転ばされるのもいつもの事です、何もしてなくても罵られるのもいつもの事なのです
それが当たり前で、それは私のごく当たり前な日常と化していました。それは死にたいくらい辛い日々、死ぬことはとても怖く死ねないのです。誰を憎めば良かったのでしょうか、こんな姿に生んだ両親でしょうか? こんな姿を望んだ人間でしょうか? こんな姿を作った神様でしょうか?
人間たちの間では色違いは異端ではなく珍しい物であり、コレクションでしたが私たちポケモンの間ではそんな優しいものではありません。異端を憎み忌み嫌い、群から迫害するそれが当たり前なのです。隠そうとしても隠しきれないその呪い、いくら泥だらけになってもいくら汚れても異端は隠しきれないのです
何処にいても何をしていても拒絶され目を背けられ石を投げられます。逃げても逃げても逃げてもそれは変わらないのです。だから、今日もまた死ぬかもしれないという恐怖に苛まれながら恐ろしいポチエナたちから耐えていました
今日こそ死ぬかもしれない、いっそこのまま死んでしまった方がいいのかもしれない。そう思い、私は深い眠りにあらがうことなくすべてを終わらせようとしたのです

「異端者」「醜い色」「気持ち悪い」「汚い」「こっちに来るな」

私の心は麻痺しているのでしょうか? 昔は涙をこぼした言葉に反応せずただ意味のない言葉の羅列として脳に伝わってきます
最後のとどめが刺されるであろう、その鋭い爪が刺さろうとしたその時何故かポチエナたちは尾を巻いて逃げていったのです。何故だろう、でも私には関係がないどうせここで死ぬのだから。目を閉じて静かにしていると誰かに抱き上げられました、今まで一度も触れることの無かった他者の体温。それはとても温かく、一度も抱きしめられたことがないというのに母に抱きしめられた時の感覚がしたのです

こっそりと目を開くと一人の人間がいました、きっとこの人間が私を抱いているのでしょう。人間は私に目もくれずにうつろな目で何処か遠くを見つめています、何を見つめて何を思っているのかそのときの私にはわかりませんでした
しかし、今ならわかるのです。この人間、ナナシは迷子なのです。私と同じ異端の存在なのです、初めて出会う私以外の異端です

ナナシは私の色が青いのを、寒いからだと思っていますがこの色は生まれつきの私自身の色です。他のラルトスたちと違う色、青
私はこの色が嫌いで嫌いで仕方がありません、しかしこの色が無かったらナナシに会えなかったのかもしれません。しかし、この色さえなければ異端の存在として扱われなかったでしょう。私はこの色を憎めばいいのでしょうか? 私はこの色を愛せばいいのでしょうか?

とりあえず、この色が私自身の色だと思っておらず石鹸であわあわにしてくるナナシが、異端である私を嫌わないうちはこの色をすこしだけ許せる気がします
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