次の町へと歩いている途中、トレーナーらしき少女に話しかけられた。少女は肩にピカチュウを乗せており、まるでサトシのようだった
少女の肩から落ちないように器用にバランスをとっているピカチュウと、後ろから静かに少女を見守る白い毛並みに赤い傷跡のあるアブソル。……なんというか、ただものじゃありませんってオーラが醸し出されてるなあ。私みたいにミニスカートじゃなくて、なんというか主人公だとかそんな感じのオーラ
どうかしましたか? と尋ねると少女はすこし言うか言わないか迷っていたが、ピカチュウが鳴くと決心ができたのか目を輝かせながらぎゅうっとスカートの端を握りながら口を開いた

「バ、バトルしてくれませんかっ!」

いきなり大きな声を出されてびっくりしてしまった。草むらで群れていたポッポたちも驚き何処かに飛び去っていったようなので、私が驚いてしまったのもまあしょうがないだろう
目を丸くしながら少女をみているとあわあわと慌て始めたので、笑みを浮かべながらいいですよと答えると一転花がほころぶように笑った。少女が笑みを浮かべるまで、アブソルが私を睨みつけていたのは私だけの秘密にしよう

私は新米なのでそんなに強くないですが云々と、まあミニスカートらしくバトル前の言葉を述べているとむっとした表情をされてしまった。ふたたびアブソルに睨みつけられる、こっちみんな。アブソルは好きだけどこっちみんな

「そんなのいいからバトルしようよ!」

そんなのって、一応ジムリーダーだろうとエリートトレーナーだろうと虫取り少年だろうと、誰だってバトル前に述べるのですが。むしろ、私みたいなミニスカートにとったら数少ない台詞の一つなのですが。……うん、まあそんなこと言ったって理解してもらえないだろうね、この子とは毛色が違うから。モブと主人公格の違いだろうね、住んでいる世界が違うんだ
ダブルバトルをしたいと言われたのでとりあえず言葉を区切って、ここではダブルバトルをするには狭いので広い場所に行きましょうと少女を誘導する、しようとした

「どうでもいいよ! だからさっさとしてよっ」

モブのくせに、無意識にこぼれた言葉なのかは知らないが少女はそう言った。……やはり、違う世界に生きている人間は何考えてるのかわからないな。数は少ないけど今まで戦ってきた相手は、こんな反応をする人はいなかったから
アブソルこっちみんなと思いながら、そうですかでは始めましょうと言いながら二つのモンスターボールを投げた。赤い光に包まれて現れたのはラルトスとタツベイ、ラルトスは後ろを振り向き私を見ると可愛らしくにこっと笑った。今日も素晴らしくかわいいね! タツベイはこちらを見向きもしない、おまえはこっちみろ

「がんばって。ちあ、まだら!」

少女の声に反応して肩に乗っていたピカチュウが地面におり、ぱちぱちと赤い電気袋から電気を発した。ちゃあ! と元気よく鳴いて、いつでも攻撃できるように身構えた
後ろにいたアブソルはいつの間にかピカチュウの隣に静かに立っていた、だからお前はこっちみんなよバトルなんだから全力で負かしにかかるに決まってるんだろうが

「ちあっ体当たり!」

「ラルトス陰分身、タツベイは避けて」

ラルトスに向かって一直線走ってきたピカチュウを陰分身で避ける、ピカチュウは四方から囲むように分身したラルトスに惑わされどうすればいいのかわからず少女の指示を仰ぐ。しかし少女は何故か指示をせずにピカチュウの様子を見ている……何故だろうか? というか、アブソルには指示をしないのだろうか?
よくわからないが、遠慮する気はさらさらないのでさっさと片づけるために声を張り上げる

「ラルトスピカチュウに念力、タツベイはアブソルに頭突き!」

ラルトスの念力でふわりと持ち上げられたピカチュウの体、苦しいのかばたばたと四肢を動かし暴れているがラルトスの念力が解かれることはない。ピカチュウに視線を向けていたアブソルの背中にタツベイの頭突きが決まる、倒れはしないがよろけたアブソルは体制を直し低く唸りながらタツベイの方を向きピカチュウに背を向ける

「ぶつけて!」

ピカチュウから目を離したアブソルの背中にピカチュウを思いっきりぶつける、背を向けていてとっさの反応に遅れたアブソルにピカチュウの体がぶつかる。念力が解かれたピカチュウはぶつかった反動で地面を転がった
ダメージは食らっただろうが、傷だらけの体で二匹は立ち上がりラルトスとタツベイを睨む。少女はどう指示をしたらいいのかわからないのか、おろおろと二匹の様子を見ているだけだった
……ダブルバトルって、想像しているのよりもずっと難しいんだよね。ゲームみたいに選択肢があるわけじゃないから、自分で指示しなくちゃならない。しかも二匹同時に指示するだなんて、慣れない人がやると見ていられなくなるほどひどいものになる。私は練習をたくさんして最近ようやく見られるようなものになってきた、それまでは少しはましだろうがあの少女と同じレベルだっただろう

「っ、まだら体当たり!」

タツベイに向かって走ってきたアブソルを難なく避けて、仕返しとばかりに頭突きを食らわす。その間にもラルトスに指示を出してピカチュウにダメージを食らわす
段々と体力を削られているのかピカチュウはふらふらとしている。そろそろとどめをさそうかと二匹に指示をだそうとした

「もうやめてよ!」

「……えっ」

「こんなのひどいよ! もう終わりにしようよ!」

えっ、えっ。ぽかーん、という効果音が似合いそうな間抜け面をさらす私を気にとめず、少女はバトル最中だというのにポケモンの元に向かっていった
事態を理解していない四匹は、いきなり現れた人間に驚き攻撃の手を止めた。念力で宙に浮かされていたピカチュウはいきなり念力を解かれ地面に落ちて、小さく悲鳴を上げた。そんな傷だらけのピカチュウの元に少女はかけより、悲痛な面もちで抱き上げる
さすがにタツベイも空気を読んだのか、隙だらけのアブソルに攻撃することなく何してんだこいつら、とでも言いたげな表情で少女とピカチュウを見ている

「……ごめんね、ちあ」

「ううん、ちあのせいじゃないよ。私が、弱いから……!」

まるでピカチュウは少女と言葉を交わしているように、少女が悲痛な面もちで発する言葉に返事をする。……ドラマとかだったら感動する場面かもしれない、でもドラマでは無く現実でやられると薄ら寒いというか、置いてきぼり感がハンパないもうどうすればいいのかわからない
少女はピカチュウを抱き上げたまま、私を一度睨むとそのまま何処かに走り去っていった。アブソルもその後ろについていき、そのまま消えてしまった

「……なんだったんだ」

意味がわからない。あ、もしかして今のこの感じがジムリーダーや四天王の気持ちかな? こっちが有利になってきてよっしゃ勝てる、と思ったら電源消されちゃう感じ。今までやってきたけど、今ならわかる本当にごめんなさい。消化不良というか、すごいもやもやする
向こうから勝負仕掛けてきたのに、不利になったからってバトルの最中に逃げるってどういうことさ。いくらなんでも我が儘すぎるだろう、素直に負けを認めろよこの切断厨め

とりあえず、私と同じくいきなりのことに理解ができずぽかんとしている二匹の元に歩いていく。頭を撫でるとなんだったんだろう、と首を傾げていて思わず苦笑してしまった
本当に、なんだったんだろうね
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