指先に硬いものが当たる。羽の硬さとはまた違う、なんだろう。よくウィンディが原っぱを転げまわったときになってるけど、もしかしてゴミでも絡まってしまっているのだろうか。ごそごそと羽の下をまさぐっても嫌がらないので、遠慮なく探らせてもらう。
 軽く引っぱってみても取れそうにはなく、周辺を触ってみるとゴミでは無くて首輪がついているようだ。その首輪についているタグが指に触れたらしい。羽に埋もれてしまい見ても分からなかった。洞窟内で撫でていたときよりも、遠慮なく堪能させてもらったから気づけたんだろうな。
 それにしてもこの首輪がついているということは、誰かのポケモンなのかもしれない。それは、過去形かもしれないけど。首輪はとれ無さそうだけど、どうにかタグだけでも確認できないかな。何か書いてあるかもしれないし。

「うーん、サーナイト照らせたりしない? なんかこう、いい感じで」

 首元を覗き込んだサーナイトは少し考える素振りを見せてから、大丈夫だと笑みを浮かべて頷いた。よし、じゃあどうにかなるかな。
 アーマーガアが大人しくしているのをいいことに、顔を埋める。ウインディのような獣臭さや、サーナイトのほのかに甘い香りとも違う独特なにおいがする。すこし土の匂いが混ざっているのは、飛び回り砂を被っているところを濡れたからだろうか。それからちょっとウインディのと系統が似ているにおいもする。嫌いじゃない。癖になる。
 いきなりトレーナーでもそれほど親しくも無い人間に顔を突っ込まれ、嫌がるかと思ったが意外と大人しくしている。さすがに驚いたのかびくっと体を震わせてはいたけど。
 私の奇行から何がしたいのか察したサーナイトがそっと視界を照らしてくれる。すこし見づらくはあるが、明るくなったおかげでタグの場所がわかった。

「えーと、何だろう」

 当たるが空気がくすぐったいのか、アーマーガアはわずかに身を捩らせた。ごめんね、鳥ポケモンに遠慮なく顔を埋めることが出来る機会ってあまりないから、ちょっとこの状況を楽しんでるんだ。
 でも長時間やると確実にストレスになるだろうから、いい加減にしないと。明るくなった視界でタグを掴み、その表面に彫られている文字を読み取る。ナックルシティの文字の後に数字がいくつか続いていることから、これが住所だとわかる。何度か頭の中で暗唱してから離れると、どうやら動くのを我慢していてくれていたようでぶるると身を震わせた。

「ごめんね」

 そう声をかけると、乱れた羽をついばんで整えつつも気にしないでと言わんばかりにひとつ鳴く。優しい。
 手帳を取り出し先ほどの数字を書いてから、どうしようかと首を傾げる。タグには住所以外は何も書かれていなかった。この子が何処かのアーマーガアタクシーに属していれば会社のマークや名前が書かれているはず。だとすると誰かのポケモンだと言うことだ。首輪をしているということは、ただ散歩しているだけとか? それにしてはタグは汚れ、錆びていた。首輪自体も古く、長い間新調しているようには見えなかった。タグは使いまわすにしても、首輪は痛んだら交換すると思うんだよなぁ。
 そうすると、誰かのポケモンだったということになる。ただ、嫌な別れ方はしていないのかな。人懐こいし、優しいし。
 ちょっとした好奇心で、タグを見てしまったわけだけど私が干渉してもいいことなのだろうか。本当にただの、他人だし。迷子で帰りたがっているならまだしも、帰巣本能もあるはずのアーマーガアならそうではないことがわかるし。絶対に何かしらの事情があるはず。仮に家に帰りたくない理由を聞いて、それから、どうするつもりなのか。
 やっぱり、触れられたくないことってあるよな。そう思い紙を破ろうと手をかけたとき、そっとサーナイトの白い手が触れた。顔をあげるとふるふると首を横に振っている。破るな、そういう意味だ。そうは言っても、住所なんて重要な個人情報だし処分するなら破って……さらにウインディに燃やしてもらえば完璧じゃない? ちがう? そっか。
 サーナイトがちらと視線を向けた先にはアーマーガアがいる。つまりは、そういうことか。

「アーマーガア、家に帰りたい?」

 エスパータイプのポケモン、そして種族的にもサーナイトは人の感情を読み取るのが上手い。私は表現してもらわないとわからないが、サーナイトには家に帰りたいという気持ちを読み取れたのかもしれない。それが隠している感情なのか、自覚していないものなのかまではわからないけど。
 唐突な問いかけに、アーマーガアは目をぱちくりと瞬きしてから首を傾げた。ああ、うん、そうだよね。急にそんなこと言われても困るよね。サーナイトがそう言うならそうに違いない精神で生きてるから許して。間違っているとも言わないけど。
 でも、急に帰りたいのかとか言われても普通に困るよね。家の場所も覚えてるだろうし、サーナイトが読み取った家に帰りたいという気持ちがあっても帰れない、帰りたくない理由が少なからずあるわけだし。もうちょっとヒントがあればいいんだけど、そんなものはない。帰りたくても帰れない理由、何だろう。

「ガア」
「……帰りたいんだね」

 そんなことを考えていたのだが、肯定するようにすりと体を寄せて来たので首元を撫でる。よしよし、かわいいな。嫉妬したサーナイトが自分も撫でてと寄ってくるのもかわいいな。両手に花!

「それじゃあさ、いっしょに帰ろうよ。ちょっと家の様子覗いて来るだけでもいいんだしさ」

 一人で行くのが嫌だったのかな。そう思っての提案だったのだがアーマーガアはひとつ頷くと、ばさりと翼を大きく広げた。もう行くのか。決まったら行動が早い。さすが。
 サーナイトをボールに戻してから背中に跨ると、何度か羽ばたいてからふわりと舞い上がった。どんどんと遠ざかっていく地上を眺めながら、落ちてしまわないようにと体勢を低くしてしっかりとしがみつく。
 ナックルシティか。まさかこんな早く帰ることになるとは思わなかったけど仕方ない。自分の用事のためではないけど、出て行ってその直後に戻るってどういうことなの。なんとなく気恥ずかしい。それに会う可能性だってゼロではない。うまく切り抜けられる気がしない。まあでも、あの人だって立派なジムリーダーだから外聞もあるし詰め寄られることは無い。
 あくまでも私と彼の関係はトレーナーとジムリーダーなんだから。会話があってもそれ以上は許されない。許されないのをわかっていたのに甘えてしまったのは私の罪だ。それ以上は彼の気の迷いであって、勘違いしてはいけない。

「なんだかなぁ」

 何度も勘違いするなと言い聞かせたはずなのにね。
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