結果的に木の実は足りたし、アーマーガアといっしょに食べる分も余裕で残った。ちょっと小腹がすいたから、とか暇つぶしにという理由が主なものなのか、基本的にひとつずつしか持って行かなかったというのが大きいかもしれない。
この物々交換において、木の実と交換する道具がどれくらいの価値があるのかわからなかった。木の実はただで手に入る物だし、と差し出されるものがただの石にしか見えないものだとしても交換しようとしたのだけど、それは駄目だとアーマーガアに止められた。
しかも相手も等価ではないとわかっていて出している自覚があるようで、バツの悪そうな表情を浮かべながら他のものを差し出しているという。なんというか、アーマーガアがいなかったらいらないもの、価値のないものばかり押し付けられていたんだろうな。本当にアーマーガアが優しくて良かった。そもそもここにもたどり着けていなかっただろうけど。

「食べる?」

アーマーガアにモモンの実を差し出すと少し考えるような素振りを見せながらも首を傾げている。

「いろいろとお世話になっているから、お礼だよ」

その言葉に納得してくれたようで、丸呑みするように木の実を食べた。仮面のような鎧の下に見える目はゆるく弧を描き、くるると喉を鳴らすような音をさせている。かわいい。
二人でモモンの実をかじりながら、ポケモンたちと交換した道具たちを眺める。月の石や炎の石、それから金の玉に誰かの落とし物であろう傷薬。もしかしたら欲しがるポケモンがいるかもしれないと出したままにしてみたが、今のところいない。求められているのは木の実だけだ。そろそろしまっても良いかもしれない。

「しまっちゃおうか」

アーマーガアが同意するようにひとつ鳴く。よし、片付けよう。ひとつひとつ鞄のなかにしまっていると、じゃらんとギターの音色とよく似た音が洞窟内に響いた。
聞いたことのある音だ。顔をあげると、いつのまに来たのだろう二匹のストリンダーがすこし離れたところに立っていた。こちらの意識を向けたくてわざと鳴らしたようで、目が合うと満足そうに頷いている。
ハイとローの姿が揃って並んでいると、なんだか絵になるな。一匹だと絵にならないとかそういう意味ではないけど。

「あーっと、木の実?」

二匹が濡れている様子から、洞窟に入ってきたら木の実を食べているポケモンが見えたから自分達もと思ったのかもしれない。人が食べてると食べたくなるよね、わかる。
しかし二匹は何も持っていないようで、お互いに何かないかと確認し終えると目で訴えかけるように……というよりも、半ば脅すように睨みつけながらこちらを見下ろしてきた。もともとの三白眼と相まってさらに目つきが悪くなっており迫力がある。
うーん、どうしようか。他のポケモンたちは交換で木の実を手に入れたのに二匹だけは特別、ということにはしたくない。それに、アーマーガアからも渡すなよという圧を感じる。

「洞窟の奥になにかあるみたいだから、取ってきてくれたら交換するよ」

しかし二匹からは動こうという気配が見られない、それどころか目つきの悪さが増している。どんな相手でもなめているというポケモンらしいし、洞窟の奥まで進んで何か探してくるよりも脅して奪い取ったほうが早いということなのだろう。
私の後ろにいるアーマーガアはタイプ相性的に二匹の方が有利だし、モンスターボールの気づいているのかいないのかはわからないが、どちらにせよ下には見られている。
ハイのストリンダーがしゃがんで下から睨み付けるようにして顔を覗き込んでくるので、じっと見つめ返す。お互いに視線をそらすことはない。見つめ合うこと数十秒、先に視線をそらしたのはストリンダーだった。勝った……わけではなさそうだな、ローのストリンダーにこちらを指さしながら何やら話しかけてるし。
何を話しているのかはわからないけど、何なのこいつきもいとかだろうな。普通に傷つくけど、野生のポケモン相手にすることではなかったし仕方ないね。
話し終えたらしいストリンダーは立ち上がると、お互いにアイコンタクトをかわすと胸の突起へと手を伸ばした。ギターにも似た音が洞窟内に響き、ポケモンたちの視線が集まる。しかし二匹はそれに臆することない。
静かなメロディから始まった演奏は、だんだんと二匹の調子が乗ってきたのか激しさが増していく。それに釣られてポケモンたちも楽しそうにその場でリズムに乗って体を揺らしたり、踊り始めた。
そうして演奏が終わったときには、ポケモンたちから賛辞の拍手た歓声が送られた。私も同じように二匹に拍手を送る。すごい。目の前で演奏を見たからかびりびりとした肌に感じる音、目にも止まらぬ早さ繰り出される軽やかな指さばき。二匹から奏でられる音が組み合わさって生まれる調和。それらは今までに見たことも聴いたこともないものだった。

「すごかったよ!」

その言葉に二匹は照れる様子も見られず、当たり前だろうと言わんばかりに胸を張ってみせた。それからこちらへと向かって手のひらを差し出す。
……あ、木の実か。
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -