背に乗せている人間の負担にならない速度、高度で飛ぶアーマーガアに連れてこられたのは洞窟だった。縄張りなのかと思ったがどうやら違うようで、躊躇いなく進んでいく背中を追うとたくさんのポケモンがいた。皆ここには雨宿りしに来ているのだろう、何匹かいるマルヤクデから発せられている熱で洞窟内は暖まっているし人気スポットなのかもしれない。
濡れた毛皮を乾かそうと毛づくろいしたり、丸くなって眠るポケモンもいたりと各々静かに過ごしている。野生のポケモン同士だ、些細なことを火種にして争いが起こったっておかしくはない。
それにじっとこちらの様子を窺うような視線を感じるので、興味が無いわけでは無さそうだ。しかし好きではないだろう人間が来ても唸り声ひとつ聞こえない。もしかしたらここでは争い事を起こさない、みたいなルールがあるのかな。雨や吹雪の間限定、とかで他の洞窟なんかでも同じようなことをしているのかも。やっぱり野生のポケモンにもいろいろあるんだよな、面白いなあ……。
天井が高いとはいえ、飛ぶには低いからかぴょんぴょんと跳ねるようにして進んでいくアーマーガアはなんかかわいい。そのまま進んでいき、他のポケモンたちがまだいないところを見つけるとそこに座った。それから私にも座るようにと促しているのか、ひとつ鳴き声をあげる。
立っているわけにもいかないし、ここでアーマーガアから離れたら何が起こるかわからない。言う通りにそばにすわると、満足そうに頷いてから羽繕いを始めた。洞窟の入り口で身を震わせてある程度は水を落としていたが、やはり濡れているのは気になるのだろう。

「あぁー私は大丈夫だよ」

じっと羽繕いをしている様子を眺めていると、私もやってほしくて見ているのだと思ったのか髪の毛を嘴でつついてくる。その優しさはとても嬉しいが痛い。普通に痛い。でも鳥ポケモンとこうやって触れ合うことはなかったからやっぱり嬉しい。
鞄からタオルを取り出し、これがあるからとアピールしてみせると納得したようで自分の羽繕いに戻った。タオルで髪を拭きながらふと思う。なんで野生のポケモンなのにタオルの使い道をすぐに理解する事ができたのだろうか。
だいぶ人には慣れているしワイルドエリアでキャンプをする人間を見て学んだのかな、それとも……この子は賢い子なんだと思うことにしよう。捨てられて野生になったポケモンがいるのは理解しているけど、勝手にそうだと決めつけるのもおかしなことだしね。

「だから出て行って正解だったんだよね?」

ただ黙ってままでいるのも退屈なので、髪を拭きながら一方的にアーマーガアに話しかけると適切なタイミングで相槌を打ってくれる。ただ、なんと言っているのかまではわからないので勝手に私にとって都合の良い言葉として受け取っているけど。

「ね、そう思う……なんで、あってるでしょ」

たまに違うと抗議するように軽くつつかれる。うーん、あっていると思ったんだけど不思議だな。
そんなやり取りを続けていると、ふと気がつけばヤンチャムが近寄って来ていた。何か用事でもあるのだろうか、そう思い観察していると開けたままにしていた鞄の中を覗き込み始めた。

「待って待って」

経験上、こうやって鞄の中を覗き込んだ野生のポケモンは木の実や道具を盗んでいく。食糧難ではないから木の実ならひとつくらいは盗まれたって平気なのだが、持っていくものが木の実だとは限らない。モンスターボールや傷薬などあまり盗まれたくないものだってある。この子が好奇心で覗き込んでいるのか、それとも盗もうとしているのかはわからないがとりあえず止めないと。
慌ててヤンチャムに声をかけるとじっとこちらの顔を見つめ、それからアーマーガアへと視線を動かした。私の後ろにいたアーマーガアがどんな表情を浮かべていたのかはわからないが、その場で飛び上がってしまうほどに驚き一目散に逃げて行った。……これって、私一人だったら確実に盗まれていたよね。

「ありがとう」

そう声をかけると満足そうに鳴いた。お礼の意味も込めてわしゃわしゃと首元を撫でると嫌ではないようで、目を細めてじっとそれを受け入れている。うーん、やっぱり鋼タイプがはいっているからか他の鳥ポケモンよりも羽が固いような気がする。それにしても黒光りするこの体はかっこいいな。
アーマーガアを堪能していると、のしのしと重たい足音が近づいて来る。音のする方を見ると、小脇に先ほどの子だろうヤンチャムを抱えたゴロンダがこちらを鋭い眼光で見下ろしていた。……まさか子供か子分がやられた仕返しか? 思わず身構えていると、私と視線を合わせるようにゴロンダはしゃがんだ。それから鞄を指さして静かに、だが低く鳴いた。
先ほどのヤンチャムの様子から考えて、これが欲しいという意味だろうか。

「鞄はあげられないよ」

あげられないと示すように鞄を自分のもとへと手繰り寄せながらそう言うと、そういう意味では無かったのか首を横に振る。そうしたらどういう意味なのだろうか。お互いにどうすれば自分の言いたいことが伝わるのか考えているようで、少しの間静寂が訪れた。
なんだろう、鞄じゃないとしたら鞄の中身……木の実が欲しいのだろうか。そう思ったとき、きゅるるとおなかが鳴る音が聞こえた。音のした方を見ると、ヤンチャムが恥ずかしそうに身を捩らせているが拘束が強いようで抜け出すことはできないようだ。
木の実だったか。ここは洞窟だから木の実はなってないもんね。オボンの実をひとつ取り出し、これかと確認するように差し出すとゴロンダはそれを受け取りヤンチャムに与えた。それからどこからともなく取り出した月の石を差し出してきた。

「えーっと」

これは物々交換ということなのだろうか。どうしていいかわからずにじっと差し出された石を見つめていると、ゴロンダは困ったかのように首をかしげてからヤンチャムが握りしめている木の実を取り上げようとした。

「あ、大丈夫! これで大丈夫だから!」

私が受け取らなかったから、交渉が成立しなかったとして返そうとしたのだろう。取り上げられそうになりながらも、抵抗せずに眼を潤ませるヤンチャムを見て慌てて石を受け取る。すると安心したのか小さく息を吐く様子が見られた。
ヤンチャムがお腹減っているということは、ゴロンダもきっと同じだろうと思いもうひとつ手渡すと深々と頭を下げられた。その真似をしてヤンチャムも抱えられたまま頭を下げる。
それにしても、野生のポケモンがこうやって物々交換をするのを知らなかった。石を置いて元いた場所へと戻っていくゴロンダの背中を見つめながら考える。
他の地方でも見られなかったしこのガラル特有なのか、それとも私が知らないだけで行っているのか。……こうやってポケモンたちが集まっているところに招かれたのは初めてだから私が知らないだけだろうな。もしかしたら今回みたいに多種族のポケモンが雨宿りとかしているとき限定で、特別に行われることなのかも。そうだとしたら、物々交換に参加できたのはとても珍しい出来事なのだろう。この月の石は記念に取っておくかな。
手に取った石をいじっていると、ふと影が差す。何だろうかと顔をあげると炎の石を口に咥えたパルスワンがじっとこちらを見ていた。さらにその後ろには何匹かのポケモンがずらっと列を作っている。
……木の実たりるかなぁ。
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