キテルグマ、友好的だし悪意も殺す気が無いのも理解しているけど気軽に殺しにかかってくるのはやめてほしい。なんで逃げられるのか理解できないキテルグマとの追いかけっこは、縄張りだと思われる場所の範囲外に行くまで続いた。たぶんバトルしてしまえばさっさと逃げられただろうけど……いい加減、敵意が見られない相手でもバトルをしかけられるようになったほうが良いのかな。どうしてもやりにくくて逃げてしまう。特に、友好的な場合は。 それにしてもここに来るまでずっと走り続けていたせいで疲れた。一緒に隣を走っていたウィンディはまだまだ余裕で、それどころかまだ走り足り無さそうに鼻を鳴らしている。彼にとってはちょっとしたお散歩程度だったのかもしれない。走っているときは逃げることに意識が向きすぎていたけど乗せてもらえばよかった。 呼吸を整えながら辺りを見回すと、建物は見えず木々すらもまばらに生えているだけで、特徴となるものが何ひとつとして見当たらない。
「ここどこだ」
スマホだったら位置情報から現在地を把握できるのだろうが、ポケギアにはそんな機能はない。まったくないわけではないけど、だいたいこの辺りと示す点があるだけで細かい情報はわからない。登ったという感覚はなかったから山ではないと思うけど……うーん。 ボーマンダで空を飛んで、地上から確認したらわかるだろうか。 隣にいるウィンディに視線を向けると、何かを嗅ぐようにすんすんと何度か鼻を鳴らしてから空を見上げた。何かあるのかな? ウィンディがしているように空を見上げてみたが、何かがあるわけでもポケモンが飛んでいるわけでもない。ただ、雲が黒く先ほどまで出ていたはずの太陽を隠してしまっている。今にも一雨降りそうな空だ。
「あ」
そう思った瞬間、頬に雨粒が落ちてきた。ぽつぽつと降ってきた雨はだんだんと強くなっていきすぐには止みそうもない。これはちょっと雨宿りしないといけないかも。でもテント持ってないから……どこか探さないと。 雨が降ってきたと楽しそうに跳ねまわるウィンディをボールに戻し、辺りを見回してみるがそう簡単に見つかるはずもなかった。大きな木があればすこしはましだったかもしれないけど、そもそも木があまり生えていないうえに雨宿りできそうなものはない。
「やばいやばい」
早くどこか探さないと。私は良いけどポケモンたちがかわいそうだ。 急いで雨宿りできそうな場所を探してみるが、すでにポケモンがいるか縄張りで私が入れるようなものはない。そうだよね、基本的には誰かの縄張りだよね。洞穴を覗きこむ度にポケモンと目があっては唸られる。唸らない子もいるけど、これ以上は入れないと首を横に降られてしまうばかりだ。 いやーこれは困った。雨を吸い込み重たくなったパーカーはだんだんと体温を奪っていき、吐く息は白くなる。 ボーマンダで近くのポケセンまで飛ぶ? いや、今飛んだら私が寒さで死ぬかもしれない。短時間ならまだしも何処にポケセンがあるのかわからないから探し回らないといけないし、それにボーマンダにも負担がかかる。
「っ、さむ」
ボーマンダの入っているボールが揺れたけど気づかないふり。彼を出すのは最終手段だ、今はまだ自分でどうにかしないと。 いやでもどうしよう。走りながら辺りを見回しているとばさりと、はばたく音が聞こえた。音のした方を見ると、アーマーガアがこちらをじっと見下ろしている。 まさかこのタイミングでバトルか! ボールに手を伸ばしかけたが、その前にアーマーガアがひとつ鳴いてから地面に降り立った。それからこちらへと背を向けるとまるで乗れと言わんばかりに翼を広げる。
「……えっと」
アーマーガアに敵意は見られない。どうしようかと悩んでいると再び鳴き声をあげると、早くと急かすように翼を羽ばたかせる。たしかにこのまま突っ立っていてもお互いに濡れるだけで意味がないし、私一人では雨を凌げそうな場所は見つけられないだろう。 そう考えたらこのままアーマーガアの背中に乗って、何処かへと連れていかれたほうが良さそうだ。それにバルジーナと違って、例え巣に連れていかれたとしても餌にはされないだろう。たぶん。
「お願いしてもいいかな」
私の問いかけにアーマーガアは頷いた。 よし、もうどうにでもなれ! この子からは敵意は感じられないし、ボールにいる子たちだって反応していない。それに今まで出会ったアーマーガアで、野生でもタクシーで働いている子でも悪い子はいなかった。タクシーの運転手の腕前もあるけどゴンドラが大きく揺れないように飛んでくれたり、野生でも攻撃を仕掛けてこないどころか木の実の生ってる樹を教えてくれたりするし。 駆け寄っていき大きな背中に乗ると、ボーマンダとは違う硬めの感触がする。チルタリスのようなふわふわはないが、これはこれで悪くはないというよりも好きだ。なんというか、黒く光るこの鎧のような体に安心感を抱いてしまう。……やっぱり何度見てもかっこいいなぁ。 アーマーガアは私が乗ってことを確認すると、何度か翼を羽ばたかせてから飛び立った。こちらのことを気遣ってくれているのかあまり高くは飛ばず、そして速度も加減してくれている。速過ぎると落としてしまうと思っているのだろうが、まったくもってその通りなのでありがたい。ボーマンダである程度は慣れているけど、雨のなか慣れないアーマーガアの背中では首にしっかりと抱き着いているとはいえ落ちてしまうかもしれないから。 それにしても、賢い子が多いというのは知っているけどこの子はそれ以上に賢いというか、人に慣れてる。なんでだろう。 |