何故キバナさんが私に執着しているのか、正直なところわかっていない。例えば私が無敗のチャンピオンを倒したとか、実はすごい能力をもっているとかそういうことがあれば納得するかもしれない。
残念なことに私は普通に自分の実力でセミファイナル二回戦敗退だし、もちろんのことチャンピオンには勝てていない。それからすごい能力は……トリップしたというのは含まれるのだろうか。しかもキバナさんに伝えたことが無いから知らないし、これは関係ないはず。そんな感じでまったくもって、彼が私に執着している理由はひとつもないし、わからない状態だ。
合鍵に関してもそうだ。他の地方を見て回ったりしていると、家を買ったり部屋を借りるお金が勿体ないうえに管理ができずに荒れてしまう。さてどうしようかと悩んでいたら「じゃあここに帰ってくれば良いだろ」と軽いノリで渡されたという流れだった。しかし私も図々しく家にいさせてもらっているので、わりと最低なのだと思う。最近だと私物を増やしているし、これは本格的に最低だ。
この間ジョウトに行った時に買ってきたリングマの木彫りは、お洒落な棚に飾られておりなんともミスマッチな光景となっている。今座っているソファにもホウエン地方で購入した可愛らしいドールやクッションが置かれるようになってしまい、侵食されるというのはこういうことなのかと納得してしまう。
……いや最低だな! 他人の家を侵食するなよ! ちょっと整理した方がいいのかもしれないと、ミズゴロウのドールをいじりながら考える。今までは一ヶ所に落ち着くということがなかったので、こういったドールなどを購入することはなかった。その反動なのか、他人の家といえども落ち着ける場所を得られたからと購入するようになってしまった。
クッションはたまに使っている様子も見られるから、ドールの方か……。今はフリマアプリとやらで売ることができるし、スマホロトムを借りて……借りないとか!
いまだにスマホロトムを手にいれていないため借りなければならない。購入するお金がないわけではないのだが、どうしてもポケギアを手放せないでいる。かかってこない、かけられない電話番号なんて意味ないのに。自分でも女々しいことをしている自覚はあるのだが、もしかしたらと考えてしまうのだ。

「うーん」

なんて切り出して借りれば良いだろうか。 スマホなんて個人情報のかたまり、そう簡単には貸したくはないだろう。頼めば貸してくれないわけではないのだが、ずっと横に座って私が何を見ているのかしているのかを監視している。やっぱり嫌だよな人にいじられるの、当たり前だけど。
さてどうしようかと考えていると、彼が帰って来たようで玄関の扉がしまる音がした。

「おかえりなさい」
「おう」

そう声をかけるとひらりと手を振られる。あまり機嫌が良くないようだ。うーん、こういうときは1人になりたいかもしれないな。タイミングを見計らって、不自然じゃない感じで出ていこう。
どかりと勢いよくソファに腰かけた彼の方にちらと視線を向けると、こっちをじっと見ていたようで目があってしまった。

「……なんだよ」
「いえ……出ていきましょうか?」

声のトーンが普段と比べて一段と低く、こちらを見る目付き鋭いものだ。直接聞くのは悪手ではあるだろうが、目があってから無言で出ていくよりかは良いだろう。そう思っての言葉だったが、さらに目付きが鋭いものとなった。

「は?」
「あ、いや、1人になれた方がいいかなって」
「……あー! くそっ」

やばい、怒らせた。わずかに腰をソファから持ちあげたキバナさんに慌ててそう言うと、悪態をつきながらぐしゃぐしゃと頭を掻き回すように撫でる。それから気持ちを落ち着けるためか、深く息を吐き出しながら俯いてしまった。
大丈夫だろうか。すこし心配になってしまい様子をうかがっていると、がばりと顔をあげたと思ったら手招いてくる。こっちに来い、ということだろう。大人しくそれに従い、キバナさんの方へと近づくと突如勢いよく腕を引っ張られる。突然のことに対応できず、思わず彼の胸へと倒れこむと抱き枕のようにぎゅうぎゅうと抱き締められた。
腕を軽くタップして解放を求めるが、腕の力は弱まらずむしろ強くなる一方だ。そのうえ力ずくで体制を変えられ、ソファのうえにキバナさんが上になる形で横になり、足を絡めとられる。こうなってしまっては抜け出すことはできない。それにしてもえげつないほど足が長い。

「いくらキバナ様が温厚で紳士的な性格をしていても、言って良いことと悪いことがあるよなぁ」
「あの写真のことですか?」

写真のことでマスコミにでも囲まれたのだろうか。彼が言うとおり、バトルのとき以外は温厚な性格をしておりマスコミ相手に笑顔を振り撒くことも多い。ただそれは悪質なものではない場合であって、今回は違ったのかもしれない。

「あー、いや、ナナシは知らなくて良い。あの炎上は関係……あるけど無いな」
「どっち」
「まあな」

なんとも言えない反応だ。しかし、彼を苛立たせるなにかがあったのには変わりはない。もう少し話を聞こうと思ったのだが、あまり話したくはない様子なので諦める。
それにしても抱きつくのはやめてもらいたい。気軽に抱きつかれすぎて慣れてはきたけど、自分で紳士的な、と言っていたけど紳士とはなんなのか。普通に考えて紳士抱きつかなくない?
そんなことを考えていたのが表情に出ていたのかもしれない。ふと見上げたとき、キバナさんはにんまりと悪い笑みを浮かべていた。

「オレ様が紳士じゃなくて、ナナシが子供じゃなかったらとっくに食われてるぞ」

ひえっ。
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -