人から借りたスマホロトムの画面をつつきながら、ナナシはため息をついた。

「すごい燃えてる……」
「気が病むなら見るんじゃねえ」
「燃やした本人が言う言葉じゃないですよ」

画面に表示されているのはフライゴンと共にナナシの後ろ姿を映した写真だ。存在の匂わせを通り越し、もはや匂わせではないその写真は燃えに燃えた。
投稿から数日たった今でもコメント欄は荒れており、キバナはまったく気にかける様子は無かったがナナシはちがった。

いまだに古めかしいポケギアを使っているため、炎上していることすら知らなかったのだ。ワイルドエリアで数日過ごし、戻ってきたときにキバナに見せられたときにようやく知った。
のんきに笑い声をあげたキバナと正反対に、か細い悲鳴をあげたナナシはさらにキバナの笑いを煽った。しかしナナシはキバナに文句を言う余裕もなく、悪意しかないコメント欄を見続けている。

好奇心がひとつもない、と言えば嘘になる。こういうとき、みんなどういった内容のコメントを書くのだろうかと気になったのだ。
それから、ポケモンと自分の身を守るためでもある。個人を特定されているのかどうかを知りたかったのだ。もしされていたら即刻他の地方に逃げるつもりでいる。
今のところ、見受けられるのは最低や調子乗るなよといったナナシに向けられる悪意ばかりで、個人を特定しているものは少ない。

「つーか見るなよ。ろくなこと書いてねえだろ」
「特定されてるかが気になるんですよ……」
「されてても良いだろうが」
「こわいことを言う」

炎上させたキバナとしては大満足だった。匂わせ、のレベルを越えているが周囲に存在を知らせたいと思っていたし、これならユウリだって興味を抱くだろう。
しかし、見せたかったのは炎上してることだけで、コメント欄は見せたくはなかった。キバナも炎上がどういうものかわかっている。悪意ばかりで見ていて楽しいものではない。

「ミニスカートなのバレてる……」
「そりゃナナシがミニスカート履いてるときの写真なんだし、見ればわかるだろ」

ナナシが言ったのは属性としての“ミニスカート”だったが、キバナからすればその意味だとは思わない。そもそもジムリーダーやチャンピオンのような、特別な存在でなければ実際にそのような肩書きは付けられないのだ。
どれだけ短パンを履いていようとも、ごっこ遊びをしていようとも、短パン小僧などという属性は付与されない。短パン小僧は短パン小僧ではなく、ただの短パンを履いているポケモントレーナーだ。
それゆえに、ナナシの言葉が写真の情報からそれすらも読み取れないのだと、馬鹿にしているようにしか聞こえない。炎上してるこわい、とか言いながら自分もきっちり煽ってるじゃねぇか、と。

「そんで、特定されてるか?」
「恐ろしいことを言いますね……私は特定されたらすぐ逃げますよ」
「は?」
「え?」

お互いに見つめあってから、何を言っているんだと訝しげな表情を浮かべる。数秒後、先に目をそらしたのはナナシだった。

「いやぁ、女友達載せただけで炎上するキバナさん大人気ですね」

ついでに話題もそらそうとしたのだが、あまりにも拙い。そもそもそらせているのかも怪しい。キバナは苛立った様子を隠そうともせず、ナナシが手にしていたスマホロトムを取り上げた。
もともと自分のではない借り物の、キバナのものだ。ナナシは文句のひとつも言う資格がない。それに言ったとしてもさらに怒らせるだけだ。ただこちらを睨み付けてくるキバナを見ないようにすることしかできない。
その様子にひくりとキバナの口許がひきつる。無意識だったとしても、不味いことを言った自覚があるのが腹立たしい。

「ナナシ」
「はい」
「……オレが言いたいことはわかるな」

例え、半ば無理矢理そうしたとしても、ここが帰る場所なのには変わりはない。家が、帰る場所はないのだと笑った彼女にこの場所を与えたのは自分だ。
守ってやると何度も伝えわからせたのは自分だ。自分が必ず守ると決めているから炎上させたのだ、そうでなければそんなことはしない。わからせたはずなのに。
ここが帰る場所だと、キバナが守るとわからせる。それほどまでに気に入り、好いている相手なのだ。建前では大人として子供を守るためだとしても、決して逃しはしない。

「お前が、帰る場所は何処だ?」
「ここです……」
「わかってるじゃねぇか」
「ひゃい」

むいと頬を引っ張ると子供特有の柔らかさがある。初めてあったときよりも、確実に成長しているのをキバナは見ている。しかし、まだこれは子供だ。大人が、自分が、庇護するべき子供だ。手を出してはいけない。
それならば他の誰かに食べられてしまわないように、何処かに行ってしまわないように手元に置いておかなければ。
他の地方に遊びに行くのは許した。禁じたらなりふり構わず出て行き二度と戻らないのが目に見えていたからだ。

「このキバナがお前が帰る場所だ。出掛けるのは構わないが、出ていくことは許さねえ」

食べられるようになったら、すぐに食べてしまわないと。
早くおおきくなればいい。
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