クリスのボールさばきは素晴らしかった。
カラカラの峰打ちからのボールを投げる。ただそれだけだったのだが、そこに一切の無駄がない。さすがフィールドワークを生業としているだけはある。
捕まえたナゾノクサが入っているボールを拾いに行くクリスに思わず拍手を送ると、恥ずかしそうにはにかんでいた。

「すごい、カラカラもすごかったけどクリスもすごい」

「いやー、なんか照れるな」

戻ってきたクリスの隣に立つカラカラも同じように照れている。ぶんぶんと骨をふりまわしているのが可愛らしい。

「私、誰かが捕獲してるところ初めて見たよ」

「えっ、自分のポケモン捕まえるときに教えてもらったりしなかったの?」

再び森の出口を目指し歩き始めたとき、ふと思ったことを口にするとクリスに驚かれた。スクールに通っていれば習うだろうし、そうでなくても誰かから教わるだろうと詰め寄ってくる。
それならばどうやって自分のポケモンを捕まえたのか聞かれたので、ラルトスからピカチュウまでどのような出会いだったかを話す。
クリスに話していて思ったが、今までバトルアンドゲットで捕まえたことがない。近いところでヒンバスをボールを投げて捕まえたがバトルはしていないからすこし違うだろう。それにしても何も技術もなく投げたボールでよく捕まえられたものだ。

「えっ、じゃあほんとに見たことないんだ…」

「うん。ボールを投げるのは知ってたからヒンバスを捕まえられたけど、教わってはないんだよね」

だから、たぶんそこら辺にいるキャタピーやビードルを捕まえるように言われても捕まえられないだろう。…バトルして動けなくなっているところにボールを投げていればいつかは捕まえられるかもしれないが。それはこの辺りに生息しているのんびりとしたポケモンなら通用しても、もっとすばしっこかったりそれこそ伝説のポケモンには通用しないだろう。
そのうちボールを投げる練習でもした方がいいのかもしれない。でも捕まえるとしたら連れ歩きできる最後の一匹だけだろうからあまり意味がない気がしてしまう。
しかし、クリスは違うようだった。

「練習しよう」

私の両手を握り、ぐいぐいと顔を近づけてくる。その勢いに思わず後ずさりしそうだったが両手を握られていることで阻まれてしまう。

「旅に連れていくわけでもなくボックスに預けたままにするのは可哀想って人がいること知ってるけど、戦法が増えることや捕獲の手段、それ以上に伝説のポケモンに出会ったときにどうするの?」

「伝説…」

「そう! スイクン、ライコウ、エンテイ! ルギアにホウオウ、セレビィ! この地方だけでもたくさんの伝説と言われるポケモンが生息していると言われているわ」

クリスは目をきらきらと輝かせる。

「そんなポケモンたちに会ったときどうするの? ボールがないから? 捕まえ方が、からないからって見逃すの?」

「ええっと…」

そもそも自分は伝説のポケモンに会わないということを伝えようと開きかけた口を閉じる。何故会えないのか、それをクリスに伝えられないし今の彼女に言っても無駄だろうからだ。

「今後! 絶対に! 捕獲技術が必要になるときが来るわ。とりあえず…そのときに捕獲したポケモンは私が預かるから、練習しよう」

「うーん、旅を急いでるから…」

「大丈夫! 基本を教えるだけだし最後の一匹捕まえるためには必要でしょ?」

遠回しに断ろうとしたがそんなものは関係ないようだ。ぎゅうと握ってくる手に力が入っている。
確かに、彼女の言うとおり捕獲技術は今後必要になって来る…伝説のポケモンに遭遇するかは別として。そうなると今、クリスに捕獲技術を教わっておいた方がいいのだろう。今後誰かに教わるような機会もないし。
それに、ちらりとさ迷わせていた視線をクリスの方に向けると相変わらず目を輝か せている。このクリスを断ることができない。

「うん、そうだね。教えてもらおうかな」

「任せて!」

満面の笑みを浮かべながら、彼女にとって必要最低限なのだろう知識を口にしていく姿に早計な判断だったのではないかと思ってしまう。森を抜けるのはいつになるのだろうか。

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