キッチンから何かが焦げたような臭いがする。ソファで眠っていたコラッタの鼻孔をくすぐったかと思えば続いて主人の悲鳴が聞こえてくる。いつものことに慌てずに主人のもとへと駆けつけると、焦げた何かが張り付いているフライパンを手にして呆然としていた。
ちゅう、と一言コラッタが鳴くと主人は視線をフライパンから動した。そしてコラッタの姿を視認するとうるりと瞳を潤ませる。

「また失敗しちゃった」

そう言いながらしゃがむと、フライパンをコラッタにも見やすいように傾ける。近づいていって中身を確認するも、原型はとどめておらずどの食材を使い何を作ろうとしていたのかまったくわからない。臭いをかいでも焦げた臭いしかせずコラッタは首をかしげた。これはなんだろう

「スクランブルエッグつくったの」

なるほど、スクランブルエッグ。あの黄色いふわふわしたものが焦げて黒くなったらこうなるかもしれない。
すんすんと鼻をならし続けるコラッタに主人は苦笑しながら立ち上がる。

「今日のご飯はこれと…昨日買ったパンを食べよう。手伝ってね」

フライパンに張り付いている黒いスクランブルエッグを二枚の皿にわけ、さらに袋から取り出したパンをのせる。パンは昨日買ったばかりで、主人が何か手を加えたわけではないので焦げてもおらずとても柔らかそうだ。
二枚の皿を手にして主人はソファへと歩き出す。その後ろをコラッタはついていく。

深いため息をつきながらソファに座った主人は一枚をローテーブルに、もう一枚を床に置いた。コラッタはその皿の前に座ってからじっと主人を見上げる。その視線に気がついた主人は苦笑を浮かべた。

「明日は失敗しないようにするね」

そう言って食べ始めた主人は焦げたスクランブルエッグを口にする度に、まずいまずいと顔をしかめる。コラッタも主人にならってスクランブルエッグを口にする。
まず口のなかに広がるのは焦げた苦さ。それに塩を入れすぎたのか、苦さのなかにもしょっぱさを感じる。さらに火を通しすぎたせいなのかぼそぼそとした食感。お世辞にも美味しいとは言えないその料理。
コラッタは口の中のものを飲み込むと、主人を見上げてちゅうと鳴く。
美味しくはないけど、路地裏で食べた生ごみよりも空腹を紛らすために食べた草木よりも、ずっとずっとおいしいよ。でも、いつか本当に美味しいものを食べさせてね。
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