「ちょっと待って!」

茂みから転がるように飛び出して叫んだのは、見たことのある少女だった。特徴的な赤と青の服装に被っている白い帽子には赤いリボンがついており、二つに縛られた髪の毛はぴょこんと上向きにはねている。少女はビードル達を背中に庇うように立つと眉尻を下げて困ったような笑みを浮かべた。

「ごめんね、このビードルに悪気はないの……スピアーが警戒してるからピカチュウを止めてもらってもいいかな」

「あ、はい……おいでピカチュウ」

ボールを手にしてピカチュウを呼ぶと少女の言葉に納得していないようだがおとなしく戻ってくる。スピアー達が興奮しないよう戻るようにと言うと渋々といった表情を浮かべていたがおとなしくボールへと戻っていく。その間、少女はビードルに向かって説教をしていた。

「もう、スピアーを自慢するのはやめなさいっていったでしょ。驚いて攻撃されたらお互いに危ないんだから」

説教されているビードルはしょんぼりと項垂れており、そんなビードルに呼び出されてたスピアー達は何をするわけでもなくその場に留まっている。時々スピアー同士で顔を見合わせ首をかしげたり頷いているのでもしかしたら何か話しているのかもしれないが私にはわからない。
それにしてもこの少女はコトネなのかクリスなのか、服装はどう見てもコトネなのだが口調はコトネらしくなく委員長な雰囲気を感じる。
少女の説教は終わったのかスピアー達は木に戻っていき、それとは反対にビードルはおずおずと私に近づいてきた。そして頭を下げると小さくビーと鳴く。私には何を言っているのかわからないが謝罪なのだろうか。

「ごめんなさい、このビードルは自分の家族のスピアー達をトレーナーに自慢したいみたいでよくここまでつれてくるの。でも急にスピアーが出てきたら皆驚くし……その驚きに驚いたスピアーが攻撃したりして……」

だから慣れてるスピアー達は出てきたときは警戒していなかったのかと納得するが、被害者多そうだなとも思う。私もだったがスピアーが急に出てきたら攻撃する人が多いだろうし、この辺りは新米のトレーナーが多いから……育て始めたばかりのポケモンであの数のスピアーを相手しないといけないのは辛い。偶然にも止めてもらえた私は運が良い。
少女はビードルの頭を撫でると抱えあげ、もうやったら駄目だよと声をかけながらスピアー達がいる木の枝におろす。それから私の方へと近寄ってくると笑みを浮かべた。

「ここからの出口わからないでしょう? お詫びに案内してあげる……えっと、名前聞いてなかったね」

「ナナシです」

「私はクリス、見たところ同い年みたいだしその敬語やめない?」

「うん」

流れるように自己紹介からの敬語からの切り替え。差し出された手を握り返しながらクリスのコミュニケーション能力の高さに脱帽する、私には到底真似できないことだ。ゴールドといいクリスといい、シルバーもある意味だが総じてコミュニケーション能力が高い。
クリスがそれじゃ案内するねと行って歩き始めたので隣に並ぶようにしてついていく。途中、ビードルが鳴く声がしたので振り反ると木から出てきたスピアー達と共に見送ってくれていた……やはり何度見てもスピアーの群れは迫力があると思うんだ。
軽い自己紹介をしながら進んでいるとやはりトレーナー同士だからか話題はポケモンに関するものに段々と変わっていく。

「ナナシはジムバッジを集めてるのね! 私はウツギ博士の助手……助手見習いってとこかな」

「助手見習い?」

「そう、年齢の問題があってまだ正式には認めてもらえてないの。でもフィールドワークは任せてもらってて今はこの森を中心に調べてるんだ」

助手見習いか、どうやら一年前から行っており私よりも先輩の様子。……ということは最近旅立ったばかりのゴールドやシルバーとの接点は少ないと言うことになる。今後もしかしたらウツギ博士を通して何か繋がりができるかもしれないがそれは私には関係のないことだろうな。すこし寂しいかもしれない。
そんなことをすこし考えつつも話を聞いているとポケモンの捕獲と調査を主に行っているとのことだったので、この森で調査したことを聞いてみると最近この森で見つけた珍しいポケモンを教えてくれた。
この森には色違いのポケモンがいるようですこし興奮ぎみに話をしているとその姿は先程までの落ち着きが消え年相応に見える。相槌を打ちながらクリスの話に耳を傾けているがまだまだ話は続きそうだ。ポケモンのことが好きなのがよく伝わってきて話を聞いているのがとても楽しい。
歩いている途中で見かけるキャタピーやパラスの生態を教えてくれるのだが、まるで図鑑を読んでいるかのようにすらすらと言葉を口にする。図鑑の内容を丸暗記でもしてるのかと思ったがどうやら違うようでフィールドワーク中にその生態を学んでいったそうだ。私もポケモンが好きだがクリスのようにここまでできるかと問われれば首をかしげてしまうかもしれないが、いつかクリスのようにフィールドワークに勤しむのも良いかもしれない。それがいつになるかはわからないが。

「そうそう、この辺りで色違いのナゾノクサが…」

そう言ってクリスが指したその先にある茂みを見るとがさがさとポケモンが隠れているようで揺れている。立ち止まり何がいると思う? なんて軽口を叩いていると隠れていたポケモンが飛び出してきた。

「ああー!」

飛び出してきたのはつい先程クリスが話していたナゾノクサであった。普通のナゾノクサとは異なり緑色の体に瑞々しい黄緑色の草が頭から生えている。色違いのポケモンなんて始めてみたななんて思っているとクリスが駆け出した。
それに驚いたナゾノクサは逃げ出すがクリスは迷うこと無く茂みを飛び越えて追いかけていく。
……よし、私も追いかけようかな。

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