あの子の行動なんて単純だから予想して先回りするのは簡単だわ。ゴールドに会わないままポケモンセンターから出ていくのなら、次に行く場所はここしかないじゃない。ゴールドに二人旅を提案するのは、ジム戦のあとでも構わないものね? まあ、ゴールドと共にジムに挑まないと言うのはちょっと意外だったけど。

「ジムリーダーは朝から大変なのね?」


隣にいるハヤトにそう声をかけるとはにかみ、わずかに頬を朱に染めながらも凛とした声でこたえる。

「ちょっと大変ですけど、これも大事な修行のうちですから」

「ふふ、偉いわね」

少し高い位置にある頭を撫でると、顔を真っ赤にして私から視線をそらす。あらあら、でも手を振り払わないということは嫌ではないということね。逆ハー狙いなら勘違いしてしまいそうなシチュエーション、でも、私はハヤトが恋愛感情を抱いているから顔を真っ赤に染めているわけではないとを知っている。
ジョウトで始めてのジム戦にすこぅしばかりはしゃぎすぎてしまって以来、彼は私を慕っている。そう、これは尊敬している人に誉められて嬉しい、恋愛感情とはほど遠い場所にあるものだわ。……脳内桃色お花畑なあのお馬鹿さんには理解できないでしょうけど。
階段を駆け上ってくる音が聞こえてきたが、ハヤトはまだ気づいていないようだ。教えてあげてもいいけれど、そうね、このままの方が面白そうね。ハヤトと談笑を続けていると、ようやくあの子が現れた。
少女は私の姿を目にすると、目を丸くして表情を強張らせた。ちいさく口が動いたのがわかる、どうして……どうしてって、決まってるじゃない。貴女の絶望に染まった表情を見るためよ。そのために、こうしてわざわざ足を運んで貴女をじわじわと追い詰めているんじゃない。狡猾な猫は、哀れな鼠を飽きるまで壊れるまで弄び続けるのよ。
思わず浮かんだ笑みを隠すように手を口許にやる。そんな私を見てハヤトは首を傾げていた。誤魔化すようにがんばってねと声をかけ、手をヒラヒラとふりながら邪魔にならない隅の方へと歩いていく。さて、貴女の実力を見せてもらいましょうか。壁に背中を預けて腕を組む。どんな試合が見れるのかしら。

「ミニスカートのナナシです。よろしくお願いします」

「オレはハヤトだ。お互い、悔いの残らないバトルにしよう」

「はい、がんばります」

互いに挨拶をし、軽く言葉を交える。無駄なことを言わないところを見るとやっぱり平凡主のつもりなのね。まあ、平凡気取りの方が愛されだと思い込んだまま逆ハーを狙うよりかは賢い選択だわ。平凡気取りからの逆ハーの方が嫌われにくい……と思うでしょう? 傍観主である私がいる限り、貴女の思う通りにはならないのよ。
審判にバトル開始の合図を送る。それを見た審判が開始と声をあげると、両者共にボールを投げポケモンを繰り出した。

「いけ、ポッポ!」

「がんばってね、ピカチュウ!」

ふうん、レッドのピカチュウね。アニメの彼のように相性の悪いポケモンを繰り出して感動的な勝利、なんてことしなくてよかったわ。ただの脇役にあんなこと、できるわけないもの。
ピカチュウは一度ナナシの方を見てから、ポッポと向き合い好戦的に頬からばちばちと火花を散らした。あらあら、意外と仲は友好的なのね。そろそろ化けの皮をはがされて嫌われてると思ってたわ……ちょっとシナリオと違ってるけど、まあ、その程度は許容の範囲内ね。むしろ、多少シナリオ通りに進まないことがあった方が面白いもの。
そんなことを考えているうちに、バトルは進んでいたのでフィールドに意識を戻す。さすがに相性が良いからか苦戦はしていない、それどころが有利な状況だ。ピカチュウが繰り出す電撃をポッポが宙を飛び避ける、しかし蓄積されたダメージのせいかスピードが落ちてきている。

「電光石火!」

ナナシの指示に従い、ピカチュウはポッポに向かって目にも止まらぬ速さで走る。宙を飛ぶ相手にその技を選択したのはミスじゃないかしら? いくら弱っていても当たらないのではないかと思ったが、まあ、そこはやっぱり補正が働くわよね。動けなかったポッポにピカチュウの体が勢いよくぶつかり、弾き飛ばされる。その衝撃で地面に落ちる。

「くっ、ポッポ!」

ハヤトの声に反応することなく、ポッポは目を回して起き上がらなかった。あらあら、意外とバトルはできるのね……まあ、あの手持ちに加えて補正があるのに勝てなかったらどうかと思うけど。
お次のピジョンはどうなるかしら、そう思っていたら審判はナナシ側の旗をあげた。

「勝者、ミニスカートのナナシ!」

あら、あらあらあら。ナナシとピカチュウが喜ぶ姿を見ながら思わず首をかしげてしまった。一匹しかださないのかしら? たしか、ピジョンがいたはずなのにおかしいわね。……あの子がバトルしたくないから、補正を働かせたのかしら。あとでちょっと、どうしてピジョンを出さなかったのか聞いてみないと。
バッジを授けるところ何て興味ないし、次は何処に行くか考えておかないと。視線をつい、と二人からそらす。
常に先のことを考えて行動しないといけないわ、あの子程度の考えならすぐに読めるからそんなに考えなくて済むから良いけど。次はそうね、ツクシのいるジムだけどその前に何かイベントが起こる……そうね、場所から考えてロケット団の幹部と会ったりとか気に入られたりとかかしら。
視線を戻すとバッジはすでにナナシの手に渡ったのかジムを後にする姿が映った。意外とあっさり帰っていくのね、もっとハヤトにしつこいくらい絡んでくるかと思ったのに。もしかしたら、私がいるからできなかったのかもしれないわ。ふふ、そうだとしたら悪いことしちゃった、かしら?

そっとハヤトに近づいていき、労りの言葉をかけるとふにゃりと柔らかい笑みを浮かべた。しかし、バトルのあとだからか心なしか疲労の色が浮かんでいる。

「そういえば、ハヤトの手持ちはポッポだけだったかしら?」

「いえ、ピジョンもいるんですがまだ上手く扱えないときもありまして……今日は特に機嫌が悪くて、言うことを聞いてくれなそうだったので出さなかったんです」

たしか、あのピジョンは父親から譲り受けたのよね。レベルが高いから言うことを聞かないのかしら、でもバッジの効果……いえ、ここはゲームじゃなくて現実なのだからありえない話ではないわ。苦笑を浮かべるハヤトの頭をそっと撫でる。

「それでも、ジムのバトルに一匹しかポケモンをださないのは相手の実力をはかりきれないわよ?」

「そう、ですよね」

「……次は、ピジョンを信じて出してみたらどう? もしかしたら貴方がそうやって失敗を恐れ、ピジョンをだそうとしないのが原因のひとつかもしれないわよ。ピジョンは、ハヤトが自分を理解してくれてないと思ってるんじゃない?」

私の言葉に少し俯いたが、ぐっと拳を握ると前を向きまっすぐ私を見つめてくる。

「サノンさんの言う通りですね。俺、ピジョンのことをちゃんと理解してなかったんだと思います。……次はピジョンも使って戦います、こいつのこと理解したいから」

逆ハー狙いみたいに何かの力に頼ったりせずに、自分の力で絆を作っていく。あたりまえことよね、でもそれができない子がいるのだから……かわいそうよね。自分の意思でなく、操られて誰かに好意を抱かなくてはならないのだから。まあ、知らないふりしてそれを見ている私も性格が悪いのかもしれないけど。

「そう、がんばってね。ああ、そういえば知り合いがこのジムに来るだろうから、来たら教えてもらえないかしら? ゴールドって言うんだけど……」

「構いませんけど、理由を尋ねても?」

訝しげな表情を浮かべる笑いかける。知り合いだからと行って、無名のトレーナーの試合をわざわざ見に行くことってあまりないものね。それに、ハヤトは私がそんなことをしない性格だと知っている。だからこそ気になるのだろう。

「彼、期待しているトレーナーなのよ」

そう言ってハヤトに背を向けてジムの出口へと向かう。さて、ゴールドは一人旅をすると言っていたけどちょっと心配だから様子を見てこようかしら。
そのあとは適当に時間を潰して、ゴールドのジム戦を観戦してからあの子を追いかけることにしましょう。どうせそんなに進まないでしょうし、すぐに追い付けるわ。
多少の誤差はあるが、シナリオ通りに進むこの快楽がたまらなく気持ちいい。ボールから出したヤミカラスがひとつ鳴いてから私の頭上高くを旋回する。

「ガァー!」

「そう、ありがとう」

早々にゴールドを見つけたようで、ヤミカラスが示す方へ足を進める。さて、ゴールドはどんな反応をしてくれるのかしら。


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