爽やかな朝だというのに起きたときから嫌な感じがする。背筋がぞわぞわするような、そんな嫌な感じがまとわりついて離れない。今日はまだ修行をして、明日にジムに挑もうと思っていたが予定は変更。準備は整っているしそれなりに強くなってるから早く挑んで、勝てたらこの町を出よう。
ベッドからおりて身支度を済ませ、必要なものをまとめていく。その最中にも頭の片隅であの人に追い付かれては行けないんだという考えが浮かび、早く逃げなければと私を急かす。余裕のない私に何か感じ取ったのか、ガーディは私の足元を落ちつきなく動きキルリアはコモルーの上に立ったまま動かない。
トレーナーとして、パートナーであるこの子達に自分の不安を感染させてしまうのは悪いことだと理解している。しかし、最低なことに今の私には余裕がなく、自分のことしか考えられない。せめてポケモンセンターからは出ないと。もう追い付かれてしまっているが、せめて早く逃げないと。

「ごめん、一回みんな戻ってて」

その言葉にモンスターボールを好まないピカチュウは嫌そうな表情を浮かべたが、抵抗をせずにボールにおさまった。ボールに向かって再び謝るとかたりと手の中で揺れた。他の子達にも謝りながらボールに戻す。
ベルトにボールをつけ、忘れ物はないか部屋を見回してから出る。そういえばまだご飯食べてない……いいや、ここでエンカウントするくらいなら適当なところでこの子達にだけご飯あげよう。
受付で部屋の鍵をジョーイさんに返し、早足でポケセンをでる。そしてポケセンから離れたところにある、まだ人のいない草むらでボールからピカチュウ達を出してご飯を食べさせる。いつもは賑やかなのだが、今日は誰も口を開かないほど静かだ。

「……ジム戦は三体を交代制で戦うから、今回はガーディとピカチュウ、それからミロカロスに頑張ってもらうよ。コモルーとキルリアはまた今度ね」

静かだからだろう、私の声がやけに響いているように感じる。彼らから少し離れた地面に座り、ご飯を食べる様子をぼんやりと眺める。
焦れば焦るほど、不安になれば不安になるほどこの子達はそれを感じとり、同調してしまうというのに。食べるのをやめ、何も言わずにじっと私を見つめてくる彼らの視線から逃げるように視線を地面に向ける。
何をやっているんだ。無駄にパートナーを不安にさせるなんて、こんなのじゃトレーナー失格じゃないか。手のひらに爪が食い込むほど拳を握るが痛みを感じない。

「キルリア、ミロカロス……?」

ふと、地面に影が映る。視線を上げると二人が私をじっと見つめて、微笑んだ。幼子を相手にするように二人は手を、尾ひれを使って私の頭を撫でる。
無意識のうちに下唇を噛んでいたようだ。そっとキルリアが私の唇に触れ、笑みを浮かべる。何をそんなに私は恐れていたのだろうか。ここは現実なんだ。例え彼女の望むモノがあったとしてその通りになるとしても、すべてが彼女の思う通りになんてならない。私には私の意思がある。抵抗すればいいんだ。私が彼女の思い通りに動くだなんて、そんなことあるわけがない。この子達もいる、一人じゃないから大丈夫。

地面に膝をつき腕を広げて二人を纏めてぎゅうぎゅうと強く抱くと、けらけらと笑い声が漏れた。ガーディがわふわふと鳴き、尻尾を振り回しながら私の体に頭をぐりぐりとくっつける。ピカチュウは身軽に私の肩に登ると、一人ぼんやりと私たちを見ていたコモルーを手招いた。
コモルーは動こうとしなかったが、私と目が合うと仕方ないなと言わんばかりにゆっくりとこちらに近づいてくる。そばに来たコモルーに手を伸ばし頭を撫でるとふんと鼻を鳴らすが、嫌ではないらしく手に頭を押し付けてくる。
思わず笑い声を漏らすと、不満げにコモルーは私に加減された頭突きを食らわす。痛いよ、なんて言いながらも笑っているからかコモルーは止めない。そのうちキルリアが止めて、それにコモルーは大人しく従うのだろう。それを想像すると、笑い声が溢れ出した。他の人から見たらくだらない三文芝居だとしても、これが私の幸せだ。

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