ご飯を食べ終え、のんびりとゴールドとともにデザートを食べる。モーモーミルクで作られたアイスを食べているのだが、これは美味しい。ゴールドがおすすめしてきたのも、ゴールドが何回もおかわりしていたのも理解できる。口の中に広がる甘さと冷たさに幸福を感じていると、ゴールドが言いづらそうに、だが好奇心に満ちた目で口を開いた。

「ナナシって、沙音さんにその……なんで目つけられてんスか?」

こんなことを言い出したのは、一緒に食事を取りいろいろ話をしたため仲良くなったからだと思う。名前もお互い呼び捨てになったし、友達ができたのは嬉しい。しかし、仲良くなってすぐにその話題はちょっとどうなんだ。いきなりすぎじゃない? まあ、でも気になることだとは思う。

「わかんないよ。初めてあったのは、ワカバタウンだったし……」

「じゃあ、会ってすぐあれなんスか?」

「そうなんだよね……」

本当はわかっているのだが、ゴールドに言う訳にもいかないのでわからないということにする。ゴールドは私の言葉に渋々ながら納得したようで、再びアイスをつつき始めた。

「たしかに、一緒に旅をしていて不思議な人だなとは思ってたんスけど……よくわかんないな」

行儀悪く口に運んだスプーンをくわえたまま、モンスターボールに手を伸ばしヒノアラシを出す。出てきたヒノアラシは元気良く鳴くと、ゴールドの膝の上に乗りたいのか小さな手で足にしがみつきどうにか登ろうと手足を動かした。ゴールドは笑いながらヒノアラシを持ち上げ膝の上に乗せた。
ヒノアラシは満足そうに鳴くと、テーブルの上が気になるのか手を端に乗せてこちらを見ている。私にはこの糸目が何を考えているのかわからない。

「不思議と言えば、あの人ってエリートトレーナーなんスかね?」

「どうなんだろう、強いの?」

「そりゃあもう! 他の地方ではチャンピオン倒したらしいし、こないだバトルしたらボロ敗けで。今バトルの仕方を教わってるんス」

「へえ、そうなんだ。強い師匠がいるなら早く強くなれそう」

「でしょ!」

目をキラキラと輝かせるゴールドと一緒に、ヒノアラシも手をバタバタと動かし興奮をしめす。

「あー、でも」

輝いていた目が一転して曇り、じっと空になった皿を見つめる。そんな主人をヒノアラシは不思議そうに見上げてから、心配そうに鳴いた。

「教科書みてーな模範的でゆーとうせいの戦いしかしないんスよね。俺に教えてくれんのもそんなんばっかで、ちーっとつまんないんだよな。教えてもらったこと以外のしようとすると文句言うしよ」

ぐちぐちと言い始めたゴールドに苦笑を浮かべてから、溶けかけたアイスを口に運ぶ。強い人にバトルを教わるのも良い体験にもなるし、役に立つだろう。しかし、それがあわない自分で試したいタイプにはあまりあわないかもしれない。自分なりのバトルというものがあるのだから、強制するのもどうなのかな。

「もっとこう、なんつーか……負けてもいいから自分で考えてバトルしたいんス!」

「なるほど」

「ナナシはずっと一人旅っしょ? 」

「この子達と一緒にね」

そう言いながら腰元にあるボールを撫でる。

「いーなー! 俺もしてみてえな。ポケモンと一緒に苦難を乗り越える! みたいな感じで」

がったんがったんと椅子を揺らし始めたゴールド、膝の上のヒノアラシが落とされないように必死に服に掴まっている。それを見て苦笑しながら、思わず口を滑らせてしまった。

「すればいいじゃない」

言う気は無かった。そんな言葉が自然にぽろりと滑り落ちていった。言った自分も、言われたゴールドもその言葉に目を丸くする。ごめん気にしないで、そう言う前にゴールドは目を輝かせ勢い良く立ち上がった。床に落とされたヒノアラシは上手く着地し、抗議の声を上げるが椅子が倒れた大きな音のせいで彼には気づかれない。

「そうだよな! わざわざ沙音さんと旅しなくてもいいんだ。よっしゃ俺ちょっと先に戻るぜ! ありがとな、ナナシ」

走り去っていくゴールドとその背中を追うヒノアラシ、そして残された私と倒れた椅子。食事をしていた周りの人の視線から逃げるよう、残っている溶け始めたアイスを素早く平らげ椅子を直して部屋に戻る。これは、やらかしちゃったかもしれない。


next
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -