苦手、というか会いたくない人物にあってしまったからといって、逃げ出すことはさすがにできない。へらりと笑みをつくって何事もなかったかのように取り繕う、が、やはり効果はないようだ。
キルリアがそっと後ろから私のベルトについているモンスターボールに触れ、コモルーとガーディをボールに戻す。最後に私の手に触れてから、彼女もボールに戻っていった。キルリアは賢い子、私がこの子達に見られたくないと思っているのを理解している。
自分達でモンスターボールに戻っていく光景にゴールドは首をかしげていたが、菱豆さんは気にしていないようだ。相変わらず人を見下していて、でもそれを隠そうとしている嫌な笑みを浮かべている。

「ふふ、相変わらず楽しそうに生きているわね?」

おう、なんだ、私が楽しいと不都合でもあるのか。それとも私が楽しんでいることが罪なのか。相変わらず突っかかってくる人だ。これは私限定なのだろう、彼女の後ろにいるゴールドのひきつった顔が物語っている。というか、本当にゴールドについていったんだこの人……冗談だとか言ってたけど、本気だったんだ……。
変に歯向かうような言動をすると面倒なことになるのは目に見えているので、大人な対応を心がけて言葉を選ぶ。

「旅は楽しいですよ? 色んな物を見れますし」

「そうね。貴女のオキニイリとか、ね?」

何だこのやろう、いちいち何なんだ。彼女の頭のなかでは物が者に変換されているのだろう、オキニイリの人物に会えるとは誰も言っていないのに。仕方ないのでそれに気づかないフリをし無邪気を装い返す。

「そうなんですよ、マダツボミの塔なんてすごかったです。この先にあるエンジュは町並みがきれいだそうなので今から楽しみなんです」

オキニイリの風景、を返すとクスクスと笑いだした。誤魔化すのが上手ね? と言われたが誤魔化してはいない本心だよばーか! ばーか! エンジュ楽しみだよばーか! 舞妓さん見に行くんだよばーか!
腹の探りあいではないが、相手に弱味を握られないよう考えながら話さなくてはならないのが面倒くさい。こういった会話はあまり好きではない、せっかく人間と話すのならもっと気楽に話したい。そんなことしたらこいつはチクチクと攻撃してくるだろうけどさ!

「うふふ、そういうことにしてあげましょうか。でも、貴女の思っているほど世界は貴女に優しくはないわよ?」

そんなこと知ってるし、私は主人公じゃないんだから。ははは、と乾いた笑い声を漏らすことしかできない。この人本当に、オカシイ人だなあ。
なんか知ってるぞこういう感じなの。あれだ、傍観夢か、そうなのか。私は逆ハー狙いなのか夢見すぎだろ……いや待て落ち着け、私を逆ハー狙いだと思ってるからこの態度なの? この人傍観主なの? え、やばいじゃん。傍観夢で逆ハー狙いがハッピーエンドってあんまみかけないんだけど、だいたい酷い目に遭ってるじゃん……まじかよ……。
嫌なことに気づいてしまい気分が落ち込んでくる。これ本当に傍観夢状態じゃん……どうしろっていうの……。顔色が悪かったのか、雰囲気が暗かったのかはわからないがゴールドが私を見て心配そうな表情を浮かべてくれた。

「あ、あー! ナナシさんまだ飯食ってないっしょ? 一緒に食いましょ」

その上助け船を出してくれるなんて……! 感激していると早く行こうといった感じに腕を引っ張られたので、されるがままになっているとあらあらと後ろから声がかけられる。

「ゴールド、貴方食べたばかりでしょう?」

そういえば二人は私の向かっていた方、食堂のある方から来たんだもんな。菱豆さんの言葉にゴールドはびくりと肩を揺らしてから、ぎぎぎとぎこちなく振り向いた。

「い、いやあ! デザートもありかなって思ったんスよ」

「あら、ならば私もご一緒させていただこうかしら」

ご一緒すんな! 寝てろ! そう言いたいが言えない私に変わって、ゴールドががんばってくれる。

「いやいや、さっき沙音さん早く寝たいって言ってたじゃないスか。俺らに構わず休んでて良いっスよ」

ゴールドかっこいいい! 私の中でかつてないほど、今、ゴールドへの好感が急上昇している。男子に庇われてきゅんっきゅんしちゃう女子の気持ちがわかる、これはきゅんっきゅんする。ちらりとゴールドの顔色をうかがうと、口許がわずかにひきつっていたが私の視線に気づくと、ウインクをしてから私の腕を掴む手に力をいれる。こんなにイケメンすぎてどうするんだろうか。
菱豆さんはこれ以上しつこくついていこうとすると怪しまれると思ったのだろう、わずかに顔を歪めながらも「そう、それなら先に休ませていただくわ」と言った。しかし足を動かそうともせずに、私を睨み付けてくる。うわ、こわっ。

「ゴールド、貴方なら大丈夫だと思うけれど……気を付けなさいね」

にやり、と口の端を持ち上げて笑みを浮かべる彼女に何とも言いがたい気持ちになる。ゴールドのことはかっこいいとは思うが、逆ハーになりたいとか狙うだとかそんなことは考えていないので、的外れすぎる彼女の言葉にどう反応すれば良いのかわからない。
ゴールドは菱豆さんの言葉の意味がわからなかったようで、首をかしげていた。そりゃ、普通わからないよね……。



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