ポケモンセンターに戻り泊まる予約をしていた部屋に向かい一休みしていると、思い出したかのように背中がひりひりと痛みだした。そういえばシルバーと別れた頃からじわじわ痛かったよな、忘れてたけど。
「うわっ」
どんな有り様になっているのかが気になり、上に来ていたシャツを脱ぎ捨て鏡の前に立つ。そして鏡に背中を向けて振り向いて見てみると酷いことになっていた。ロケット団のラッタの攻撃を受け、地面を転がったたときのものだ。広い範囲の皮膚が剥がれたりはしていないが、細かい擦り傷と青あざが背中全面に広がっていた。背中以外にも腕や足にも細かい傷があったが、一番背中が酷い。背中からぶつかったからだろう。 怪我を意識し始めるとさらに痛み始める。これは、ジョーイさんに見せた方がいいのかもしれない……しかし何があったのかは言いづらいしなあ……。どうしようかと悩んでいると、とんとんと足を軽く叩かれる。下を向くとキルリアが部屋に備え付けられている救急箱を差し出してきた。
「キルリア……!」
これを使いな、ということなのだろう。キルリアと視線を合わすためにしゃがみ、救急箱を受け取ったのはいいが背中の治療というのは一人ではやりにくい。さてどうしようかと悩んでいるとキルリアに手を引かれて誘導され、背もたれの無い椅子に座る。 なんていい子なのだろうか。そこで怪我に気づかないなんて馬鹿だなあみたいな目をしたコモルーとは大違いだ。コモルーは表情は変わらないが、目を見ると何が言いたいのか伝わってくる。しかしそれは五割程度しか理解できていないので普通にトレーナーとパートナーの以心伝心レベルなのであった。もっとこの子達の気持ちがわかるようにがんばるよ。 一人そんな決意を胸に秘めていたらばしゃあと背中一面に液体がぶちまけられた。このアルコール臭、ひんやりした感じ……ペロ、これは消毒液! いや、舐めてないけど。コモルーと見つめあっていたらキルリアの治療が始まっていた。後ろを振り向くと椅子の上に立ったキルリアが消毒液が入っていたのであろう入れ物を片手にこちらを見て笑う。かわいい、と思ったがそれどころではなくなった。
「うわ、しみるしみるしみる!」
擦り傷に消毒液がしみて、ひりひりと痛む。私の反応を見てキルリアがおろおろとし始めたがフォローができない、どうすればいいのかわからなくて私も焦っていてもうどうすればいいのかわからない。遊んでいるように見えたらしいガーディがわふわふ言いながらじゃれてくるが構っている暇はなく、一人と一匹でおろおろしていたら、一人静かにしていたコモルーの頭突きが私にヒット。もちろん、キルリアにはやらない。 落ち着け、という意味だったのだろうか。たしかにうるさかったもんな。痛みにもだんだん慣れてきて落ち着いたので、涙目のキルリアを慰める。
「大丈夫だよ、もう痛くないから。ありがとうね」
そう言って頭を撫でると落ち着いたようたが、しょんぼりとしている。今まで怪我の治療なんてしたことないもんね、仕方ないよね。ガーディがこっちも撫でろと体を擦り付けてくるので、一緒に撫でてやると嬉しそうに尻尾を振り回す。
「そろそろご飯に行こうか」
脱いでいたシャツを着直して、モンスターボールがベルトについていることを確認してから部屋を出る。私の後ろをキルリアとコモルーがついてきて、ガーディが転がるように走って部屋を出ていった。そのまま走って何処かに行ってしまったかと思えば、私がついてきていないのに気づいたらしくしょんぼりしながら戻ってきた。ガーディは生きるのが楽しそうだ。 足元をぐるぐると回り続けるガーディを蹴飛ばしてしまわぬよう気を付けるため、下を向きながら廊下を進む。ちなみにキルリアはコモルーの背中に乗っている。元気すぎるガーディに巻き込まれないように、そしてガーディがやんちゃしすぎないように見張るためだ。 キルリアはガーディを弟だと思っているようで、最近は姉のように振る舞う態度が目立つ。ガーディも、キルリアやコモルーを自分よりも上だと思っているようでちゃんと言うことを聞いている。でもピカチュウは同じくらいの立場だと思っているようで、よくじゃれついている。種族の違いとかどうでもいい、可愛らしくて何よりだ。
「今日は何を食べようか」
「わふわふ」
「うどんがいいね!」
「わふーん」
「あらあら、大きな独り言ねえ?」
聞きたくなかった声に顔をあげると黒と白でまとめられた服、何か企んでいそうな笑み。後ろにいるゴールドの苦笑。うわああああああ何かでたあああああ! とはさすがに言えなかった。
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