ライバルに声をかけると睨まれたうえに返事がない、その代わりにニューラが返事をしそれに対してコモルーが小さく吠えるという謎のフルコースだ。なんだこれ、と思っているとシルバーに名前を聞かれた。一瞬、何を言われたのか理解ができなくて思わず聞き返すと鼻で笑われた。

「二度も言わせるな。……お前の名を教えろ」

「あ、ああ。ナナシです。この子はコモルー」

「俺はシルバーだ。そのポケモンはこの地方のポケモンではないな」

研究所から盗んだのであろうポケモン図鑑を取りだし、コモルーを調べながらそう言ったので肯定の返事をする。他の地方のポケモンに興味があるのかコモルーを観察するように見ていたが、視線を外し再びポケモン図鑑に向け何かを操作しているような仕草を見せた。
ポケモン図鑑がどの程度のものなのかを試しているのだろうか。私の記憶が正しければ、まだ旅に出たばかりの時のポケモン図鑑はジョウトのポケモンしか記録されなかった気がする。

「……わざわざロケット団につっかかる奴は珍しいが、お前も何かあるのか?」

「ええ、まあ。ちょっと嫌なこと、私のポケモンたちを馬鹿にされたので」

シルバーにとってちょっと嫌なことをされたから、という理由でつっかかるのは馬鹿がやることらしい。図鑑から目を外さないまま鼻で笑う。人によって価値観は違うものなのだから仕方がない。わざわざ食って掛かるものでもないだろう。私が大事にしているものを、必ずしも他人が理解してくれるわけではない。
コモルーは見慣れない機械をかざされても気にせず、ふいとシルバーから視線を外したかと思ったらこちらを向いてぎゃうとないた。バトルで疲れただろうし、そろそろボールに戻りたいのだろうか。ボールを見せるとこちらに寄ってきたのでそのままボールに戻す。
まだ図鑑をいじっていたらしいシルバーはわずかに不満げな表情を浮かべたが、すぐに元の不機嫌そうな表情に戻り図鑑をしまった。そして私に背中を向けると、何も言わずに何処かに立ち去ろうとする。思わず声をかけそうになったが、何と言おうとしたのか自分にもわからず言葉にならなかった。むしろ、何故声をかけようとしたのかわからない。
自分の言動に困惑していると、数メートル先にいるシルバーが振り返った。

「二度と、ロケット団に関わるな」

「えっ」

なんでそんな主人公に向けて言うような台詞を私に向かって言うんだ。たかがモブがロケット団に関わる機械は滅多に無いのだから、わざわざ言うようなことでもないだろう。シルバーの考えていることがわからず呆然としていると、わずかに顔を赤く染めたシルバーは私から視線をそらすと再び歩き始めた。
い、いったい何だったんだ……。私はただシルバーの後ろ姿が小さくなるまで見続けることしかできなかった。この短時間でよくわからないことが起きすぎている、今日はもうポケモンセンターに戻ろう。そう考えると気が抜けたのかずきずきと背中が痛みだした。くそ、嫌な予感しかしない……。


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