ここで手を抜いたらあとで殺される、それくらいの心意気でやらないと。擦り傷がヒリヒリと痛むが、いつも戦って怪我をしている彼らに比べればどうということはない。立ち上がって前を見据える。ラッタ、ノーマルタイプに対して効果が抜群なのは格闘タイプだが生憎連れていない。しかし、相手もこちらに対して効果が抜群な技を覚えてはいないだろうし時間はかかるが勝てるはずだ。

「もう一回かみつく!」

「防いでっ」

再びラッタがかみついてくるのを体を覆う固い殻で防ぐ。コモルーの体にはわずかに傷が傷ができただけだが、ごりん、というあまりの固さにラッタの歯が欠けた嫌な音がした。コモルーは歯が欠けて痛がっているラッタを見て満足そうにしてから、その隙に頭突きを決める。ラッタはその衝撃で転がり後ろにあった木にぶつかったが、ふらふらとしながらもまだ立ち上がる。
ロケット団はラッタに対して叱責を飛ばすが、ラッタの耳には届いていないのかそちらを見向きもしない。もしかしたら、自分のポケモンではなく支給されたポケモンなのかもしれないと、なついている様子がまったくないところを見るとそう感じる。

「コモルー、頭突き」

ロケット団の言うことを聞かずによそ見をしていたラッタにコモルーが走っていき、その勢いを殺さずにラッタに突っ込んでいく。ラッタの悲鳴が上がり、それを聞いたロケット団が頭を抱えながら減給だと嘆いた。コモルーが離れると、目を回したラッタが地面に倒れている。

「お疲れさま、コモルー」

戻ってきたコモルーにそう声をかけると満足そうにした。ロケット団がまた何か仕掛けてくる可能性もあるため、ボールに戻さずにいるとそれまで静観していたライバルが前に出てきて私の前に立つ。なんだこいつ、と思っているとコモルーも文句があるのか何故か私に対して訴えてくる。頭を撫でてなだめていると、ライバルは言葉を発した。

「貴様らの目的は何だ、答えろ」

「は、はあ? ガキに答えるもんなんてねーよ」

ロケット団はラッタをボールに戻し、ライバルに対して下品な笑みを浮かべる。バカにしているのか、おちょくっているのか答える気は全く無いようで二人で笑いあっている。
その笑みが凍りついたのは一瞬の出来事だった。いつのまにか、ライバルのポケモンだと思われるニューラが一人のロケット団員の首に鋭い爪を添えている。仲間を人質にとられ、動くことができない。人質になっている方は目に涙を浮かべながら許しを乞うた。しかし添えられた爪が離れることはなく、むしろ首の薄皮をわずかに傷つけ一筋の血が流れる。さすがにやりすぎではないのだろうかと思うが殺気だったライバルに口出しすることはできず、大人しくするしかない。

「お前らに拒否権はない、答えろ」

「……! ロケット団の復活だよ、そのために上からポケモンを奪ってこいと命じられたんだ!」

「……」

答えが気に入らないのか、ライバルはニューラの手を下ろさせようとはしない。人質は悲鳴をあげつつも、それ以外は知らないと必死に主張する。

「それ以外は知らないんだ! 俺たちしたっぱにはそれくらいの情報しか与えられない、だから解放してくれっ」

「……チッ」

たいした情報は持っていないと判断したのかライバルの舌打ちと共に人質は解放され、すぐに二人は逃げていく。そんな二人を追いかけたりはせずライバルは後ろ姿をじっと見つめている。あ、治療費とクリーニング代をいただいてない。しかしそんなことを言い出せるような空気ではないので大人しく黙っておく。
ふと視線を動かすとライバルの元に帰ってきたニューラがじっとこちらを見つめていたので手をふると、目を丸くしてから首をかしげた。可愛い。ニューラの視線が動き私の足元にいた退屈そうなコモルーが気になるのか、次はそちらを見つめる。視線に気づいたコモルーが文句ありげに鳴くと、ニューラはライバルの肩に飛び乗った。
いったい彼らの間にどんな会話があったのだろうか。気になる。それよりも何やら考えているライバルが気になるので、恐る恐るだが話しかけてみる。


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