何が起きたのかわからず目を白黒させていたが、ピカチュウの声が聞こえて我に返った。ピカチュウの声が聞こえた方を見上げると、ピジョンの背に乗り空を飛んでいた。ピジョンは大きく一声鳴くと、ゆるやかに地上に舞い降りた。背中からぴょんと飛び降りたピカチュウに近づくと、定位置になりつつある肩の上に飛び乗り帽子を手渡される。
受け取った帽子を女の子に手渡すと、ちゃんとピカチュウにお礼を言ってから去っていった。ちゃんとお礼の言える良い子だ。後ろ姿を見送ってから、羽を整えているピジョンに近づく。毛並み、というか羽が艶がありとても綺麗で整っているところを見ると、野生ではなく誰かのポケモンなのだろう。

「ピカチュウを助けてくれてありがとう」

「ピッカ!」

ピジョンにピカチュウとともにお礼を告げると、頭を軽く下げた。どういたしましてだとか、そういった意味だろうか。できることならこのピジョンのトレーナーにもお礼を言いたいのだが、辺りを見回してもそれらしき人物は見当たらない。一匹で散歩の途中だったのかもしれない。
さすがに飼い主が来るまで待つということはできないので、羽休みを終え飛び去ったピジョンを見送ってからマダツボミの塔に向かう。それにしてもあのピジョン、目付きが凛々しかったな。よく育てられているのだろう。

「怪我してない?」

「ピ」

大丈夫そうだ。怪我をしていないとアピールするために、小さな手でピースをしている。かわいい。


そんなわけで、私はガーディとピカチュウをつれてマダツボミの塔を進んでいる。想像以上にピカチュウはバトルに慣れているというか、才能があるみたいで楽々相手を倒している。一方ガーディはまだバトルに慣れていないため善戦とは言えないが勝ち進んでおり、純粋にバトルを楽しめているようだ。その証拠に、バトルが終わって駆け寄ってくるガーディの尻尾は千切れんばかりに振り回されている。
修行僧やトレーナー、野生のポケモンを倒しながら進んでいくとようやく最上階へと続く階段にたどり着くことができた。私の記憶が正しければ、ここで連戦になるはずだ。大きなダメージは食らっていないが、回復しておいた方がいいだろう。通行の妨げになら無いように廊下の隅によろうとすると後ろから声をかけられた。
後ろに人がいるとは思っていなかったので、慌てて謝り声のした方を振り向くと見覚えのある顔があった。私が一方的に知っているだけだが、その見覚えのある顔はシルバー……否、ライバルであった。
彼は私を睨む……もとから目付きが悪いせいで睨んでいるように見えるのかもしれないが。私から足元にいるガーディとピカチュウへと視線を動かし、それから口を開いた。

「何故立ち止まった? 最上階はすぐそこだ、進めばいいだろう」

私は連戦があると思っているが、彼は連戦があるとは思っていない。だから、何故私が最上階を前にして立ち止まった理由がわからないだろう。素直に理由を話すわけにはいかないので、黙っているのも怪しいし多少真実を歪ませて伝えることにした。

「最上階ですし、もしかしたらこの塔で強い人がいるかもしれないなー、と思いまして」

「……はっ」

鼻で笑われてしまった。何故だ、用心深いことはいいことでもあるというのに……解せぬ。

「この程度で回復が必要ということは、お前のポケモンは弱いんだな」

「……」

その発想はなかった。言い返さずに黙っている私に、さらに彼は言葉を続ける。

「ふん、所詮そんなものか」

彼は私に背を向けて最上階に続く階段を登り始めた。威嚇し始めたピカチュウをなだめて、おいしい水を飲ませる。あんな安い挑発に乗るほど私は子供ではないし、あの程度なら普通のトレーナーからされてもおかしくはないくらいだ。

「私の方針なんだから、気にしない方がいいよ」

瀕死なりかけの状態でごり押しプレイをしたくない私のわがままなのだし、彼らが気にすることはない。わしゃわしゃと二匹の頭を撫でてから、ライバルに続いて最上階への階段を登る。バトルしているのであろう音が、聞こえてきた。


next
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -