一人で行くと宣言した通り私はヨシノシティを走って通りすぎ、ボングリもポケモンじいさんの家も無視してキキョウシティまでやってきた。ここまで来る間に野生のポケモンやトレーナーと戦ったのだが、ガーディもピカチュウもバトルに勝つことができた。
ピカチュウは親が優秀だからか、覚えている技も多くバトルには慣れているように見えた。ガーディは始めてのバトルに最初は戸惑っていたが、だんだんと楽しいと思えるようになったのか積極的に野生のオタチに突っ込んでいった。危ないのでやめてほしい。
さすがにここまで休まずにバトルを繰り返していたら疲れたので、いったん休もうとポケモンセンターに向かう。ワカバタウンを出発したのは午前中だったのに、もう午後になっている。そういえばまだ昼食をとっていなかったことに気づくと、空腹を思い出してしまった。

「ご飯食べようか」

「わん!」

嬉しそうに尻尾を振り回すガーディに和みつつ、ポケモンセンター内にある食堂に向かう。今日のご飯は何にしようかと考えながら進むと、食堂のとある一角が騒がしかった。何かあったのだろうか、好奇心に負けて近づいていくと画面越しに見たことのある顔がいた。

「スイクンはとても美しく、優雅で、強い! 素晴らしいポケモンなのだよ!」

スイクンについてまわりの人々に熱く語り、君もそう思うだろうと半ば強制的に同意させているのはスイクンハンターのミナキさんだった。いろんな町に出現するからかミナキさんはちょっとした有名人らしく、サインを求められていたりした。それに快く応じるミナキさんも、有名人らしい扱いはまんざらでも無いらしい。たまたま近くにいた人にも、頼んでもいないのにサインを書いてあげている。
ゲームや漫画の通り、面白い人なんだな。ガーディがご飯を催促してくるので集団から離れて適当に空いている席をガーディに確保してもらってから、ご飯を注文しに行く。今日は何を食べようかな。


満たされたお腹に幸福を感じつつ、今日泊まる部屋を予約してからポケモンセンターをあとにする。キキョウシティのジムリーダーであるハヤトは飛行タイプの使い手だから、ピカチュウを中心に修行しようかな。
ご飯を食べ終えたピカチュウは私の肩に乗りながら欠伸をこぼしている。修行場所を何処にしようかと考えながら歩いていると、マダツボミの塔を思い出した。
巨大なマダツボミが塔の柱になったとかいう伝説を持つマダツボミの塔、ちょうど修行するのにはいいかもしれない。トレーナーはたしかマダツボミばかり繰り出すから、トレーナーはガーディで野生のポケモンはピカチュウで相手すればちょうど二匹同時に育てられる。
これは良い考えだと自画自賛しながら、民家の屋根と屋根の間から見えるマダツボミの塔を目指して歩いていく。実際に見てみると大分迫力があるな……ゲームのときにスズの塔と比べたりしてごめん。

「ピ!」

「ん? どうしたの、ピカチュウ」

ピカチュウの声に何かあったのかと彼の見ている方向に視線を向けると、小さな女の子がいた。その子は背の高い木を見上げながら、その周辺をぐるぐると回っている。何かあったのだろうか、気になって近づいて声をかけると私に気づいた女の子は眉を下げながら、涙目でとある枝を指差した。

「あの、ぼうしがひっかかっちゃったの。えっと。とってもらっても、いいですか?」

たどたどしい敬語でそう言う女の子をどうにかしてあげたいと思いつつ、女の子の指差した先を見る。風に飛ばされたのだろう帽子が、枝に引っ掛かってしまっている。木を登ってとるのは難しそうだが、飛行タイプのポケモンにはすぐにとれるだろう。
しかし、残念ながら私は飛行タイプのポケモンは連れていない。キルリアの念力で帽子をとれないか試してみようと、ボールに手を伸ばすよりも先にピカチュウが私の肩から木に飛び移った。しっかりと小さな手で木にしがみついたピカチュウは手足を動かして登っていく。
木登りには慣れているのか、すぐに帽子が引っ掛かっている枝までたどり着くことができた。少女が歓声をあげると、ピカチュウは嬉しそうにした。

「ピカチュウ、気を付けてね!」

「ピッカ!」

まかせろ、と言わんばかりの声をあげてピカチュウは一歩枝に足を進めた。太く見える枝だがピカチュウが乗ると折れはしないが、わずかにしなってみしりと音をたてる。嫌な予感しかしない。万が一に備え、ピカチュウのいる枝の下辺りで待機する。
ピカチュウが一歩進む度に枝はしなるのだが、気にせず進み帽子に手を伸ばした。
風にあおられ飛んだり落ちたりせず、うまく帽子を掴めたピカチュウだが木の幹まで戻るのが難しい。キャッチするから飛び降りることを提案したのだが、首を横にふった。
嫌な予感しかしない、その考えは実現してしまい枝の折れる音とピカチュウの驚く声がした。落ちてくる枝に帽子を手放さないピカチュウの体。ピカチュウを受け止めるために手を伸ばしたが、私がピカチュウを受け止めるよりも前に風が吹きピカチュウを拐った。

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