レッドは空を飛ぶリザードンの背に乗りマサラタウンに向かっている途中、先ほど分かれた少女について考え始めた。
突如として自分が寝床にしている洞窟に現れた少女が―恐らくポケモンのテレポートを使って現れたのだろう―気を失ったまま動かずに冷たくなっていくその体に恐怖を覚えた。
旅をしている最中死にかけたこともあるし、死にそうになっている人も見たことがないわけではない。旅をしているうえでいつ自分がそういう目に遭ってもおかしくはないものだ。
誰も来ない秘境の地ではない限り、たいていは人が通りかかるので死ぬことはない。仮に自分が助けなくても他の誰かによって助かる可能性が高いのだ。
しかし、今ここにいるのは自分一人で、ここを通りすがる人なんてほぼ存在しない。自分が助けなければ死んでしまう少女に対してわいた感情は、使命感だったのだろう。たとえ長い間いても慣れることのない寒さに耐えながら自分の毛布を貸し、嫌がるリザードンに無理矢理彼女の体を預け暖かくしてやった。
トレーナーにとって仲間であり、相棒である彼女のポケモン達は、モンスターボールの中からただレッドの行動を見守っていた。
もし、眠っている少女に害が加えられれば死ぬことを覚悟しボールから飛び出していただだろう。勝てるはずのない相手を前にしても、彼らはただレッドを監視するように睨みつけている。レッドはそんな彼らのことが何を考えているのかを理解していたのか、ボールの上から彼らに触れた。

「彼女を死なせたりはしないさ」

レッドのその声と表情に、人間よりも人間を見る目がある彼らはようやく目つきを緩めた。疲れているのか、眠そうにしているがわずかな気力で目を開けているのだと思えた。
そのときの光景を思い出しレッドは口元を緩めた。少女が目を覚ましたときの、少女と彼らの喜び方はお互いを信頼しあっている証だった。それはよくある光景だというのに、何度見てもレッドには素晴らしいものに見えた。
旅をしてきた中で、様々な形のポケモンとの繋がりを見てきたレッドはそれが一番良いポケモンとの繋がりだと考える。ポケモンを友人、相棒、仲間、家族と呼び異種間であったとしても芽生える信頼。
あの少女もまた、自分のように良い仲間と出会えたのだろう。だからこそ、長い間自分のそばにいた大切なピカの子供を託せたのかもしれない。ピカの子供とも、彼女とその相棒達なら良い仲間になれるだろうと思ったから。
良い仲間とともに、様々な町を巡りたくさんのことを学んでほしい。それは誰にでもできそうで、きっとできないことだ。短い間しか過ごしていないが、レッドはあの少女がそれができると信じている。何処か普通とは違う雰囲気を纏う彼女であったが、ポケモンへの愛は自分と同じくらいだと感じられた。そんな彼女とともに、苦楽の道を歩いてほしい。あのシロガネ山を修行場にする自分に会いに来ると言った少女だ、たくさんの困難を乗り越えた末に自分に会いに来てくれるだろう。
リザードンが高らかに吠えた。視線を下に向けると、張るか遠くに懐かしいマサラタウンがある。ふとグリーンに戻ることを伝えていないことを思い出し、機嫌が悪くなるであろう彼のことを考えレッドは笑みを浮かべた。

「ただいま、マサラタウン」


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