逆ハー狙いなのだから、もっと派手な格好をしていると思ったら案外地味なのね。平凡気取り、とでもいったところかしら? まあ、私は面白ければどちらでも構わないわ。私が考えていたシナリオと違うのも、それもまた一興だわ。 近づいてくるウツギ博士に笑みを浮かべながら挨拶をし、こちらに興味を抱いているらしいゴールドにも挨拶をすると犬のように近づいてきた。 あの女はこちらに興味のないふりをしているのか、肩に乗せているピカチュウと戯れている。あのピカチュウは、私の書いた台本通りのレッドのピカチュウなのかしらね? それはわからないけれど、あまりなついているようには見えないわ。 ベルトにはモンスターボールが五個ついていて、中は確認できないけれど、まあ、想像はつくわね。平凡を気取りながらも、伝説のポケモンをつれているに違いないわ。珍しい色違いのポケモンもいるのかしら? ふふ、逆ハー狙いの考えそうなことね。異物ごときが伝説を連れ歩くなんて身の程を知るべきじゃないかしら。 ウツギ博士と軽く世間話をしたあと、逆ハー狙いに近づく。一応、挨拶した方がいいものね。周りから見たらただの自己紹介にしか見えなくても、あちらからしたら牽制になりうるから。 こちらを見た逆ハー狙いは不思議そうな表情をしていた。トリップしたのは自分だけだと思っているのだから、当たり前よね。ふふ、かわいそうな子ね……今のうちに楽しんでおけば良いわ、いずれは私の手で潰されるのだから。 ああ、楽しみだわ。地面に這いつくばって苦しむ姿を私は見下ろすの。
「始めまして、私は菱豆沙音よ。貴女は?」
「ミニスカートのナナシです。よろしくお願いします」
あらあら、それなりの教養はあるみたいね。差し出した手を軽く握り返してきた彼女を見てそう思った。振り払われるか、無視されるかと思っていたのだけれどね。 どうやら、王道の痛々しい逆ハーでは無いようね。それなりに考えがあって行動している……といった感じかしら? でも、残念ね。ゴールドに無理矢理ついてきている時点で、貴女はただのミーハーに確定するのよ。
「貴女も彼と同じようにポケモンをもらいに来たのかしら?」
貴女の考えていることはわかっているのよ? 遠回しにそれを伝えると、彼女は顔を歪めたりはせず、ただ本当に私の言っている言葉の意味がわからなかったかのような表情を浮かべた。 それは、私に考えを見透かされて驚いているからではなく、ただ本当に意味がわからないとでも言いたげな表情だった。
「いえ、いただきませんよ。私にはもうこの子達がいますし」
あら、あらあら。意外だったわ。御三家とも呼ばれる、王道中の王道のポケモンをもらわないのね。すでに他の地方でもらっているのかしら? それとも、わざと興味がないふりをしているのかしら? ふふ、まあ、私にはそんな小さなことは関係ないわ。例え御三家をもらわなくても、貴女が逆ハー狙いなことは揺るぎ無い事実よ。 彼女から手を離してから、肩に乗るピカチュウにも手を伸ばしたが無視されてしまった。あら、私はポケモンから愛されるはずなのにおかしいわね?……なーんて言うと思った? 逆ハー狙いのポケモンが、逆ハー狙いを盲目的に愛しているなんて想定済みよ。 なついていないように見えても、結局は逆ハー狙いのポケモンということね。 ふい、と私から視線をそらしたピカチュウを見た少女が私に謝る。その態度には純粋に驚いたみたいで、口に笑みが浮かんだりはしない……想定外の態度だったというわけね? まあ、平凡気取りからしたら想定外でしょうね。 でも、もしその態度も想定したことでわざとやらせているんだとしたら……滑稽だわ。平凡な自分を盲目的に愛す従者なんて、いるわけもないのに。ふふ、愚かな子ね。
「沙音さん、ナナシさん。ちょっとこっち来てほしいっス!」
ゴールドに呼ばれたので、くすくすと笑い声を漏らしながら少女のとなりを通りすぎ彼のもとへ向かう。彼女には私の笑い声がどう聞こえたのかしら? 単純にゴールドを微笑ましく思う声、それとも貴女を嘲笑う声?
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