研究所の外で渡されたモンスターボールのなかに入っていたポケモンは、レッドさんのピカの子供であるピカチュウだった。黒い眼がこちらを見つめている。
「出してみな」
「はい」
開閉スイッチを押して現れたピカチュウは私を見上げてから、レッドさんを振り返った。レッドさんは片膝を地につけ、ピカチュウに話しかける。
「お前にもピカみたいに外を見てきてもらいたいんだ。ナナシについていってくれないか?」
ピカチュウはレッドさんの言葉に元気よく頷くと、私の足元まで走ってきたと思ったらそのまま肩まで駆け登る。ポケモンを肩に乗せるという体験は始めてで、肩に乗る重みに感動した。差し出された小さな手をよろしくと言いながら握ると嬉しそうに鳴いた。
「よかったな」
「はい!……あの、ピカは?」
親子の別れなのだから挨拶くらいした方がいいんじゃないかと思いそう言うと、立ち上がったレッドさんはそれもそうだなと言ってピカをボールから出した。ボールから出てきたピカは、今までのやり取りをボールの中から見ていたからか私の肩に乗るピカチュウを見ても怒ったりはしなかった。 正直な話、子供はやらんみたいに怒られるんじゃないかと思っていたので安心した。ピカはじっと私の顔を見つめてから、レッドさんの肩に登った。まさにピカの定位置、といった感じがするのは漫画の読みすぎだろうか? いや、アニメの見すぎかな? ピカとピカチュウはお互いを見つめあって、短く鳴いた。それが別れの挨拶だったのかはわからないが、二匹とも満足そうな表情をしている。
「挨拶し終わったみたいですね」
「そうだな。じゃ、ピカチュウを頼んだぞ」
「はい。レッドさんはこれからどうなさるんですか?」
「マサラタウンに行こうかと思ってる。たまには顔見せないとだからな」
そう言ってレッドさんはピカをボールに戻し、リザードンを出した。リザードンは大きく翼を羽ばたかせると、ふんっと鼻を鳴らした。どうやらリザードンはボールの中より外の方が好きみたいだ。これはほとんどのポケモンに言えることかもしれないけど。
「短い間でしたが、お世話になりました」
「ははっ、いーっていーって。今度は自力でシロガネヤマに来いよ」
「はい、いつか必ず」
レッドさんがリザードンの背に乗ると、翼を力強く羽ばたかせ飛び上がる。そして一度吠えると、マサラタウンに向かって飛んでいった。私はその影が見えなくなるまで見送ってから、肩にいるピカチュウに話しかけた。
「よろしくね、ピカチュウ」
「ピッカ!」
元気よく返事をしてくれたピカチュウに自然と頬が緩む。これから大変なことになりそうな気がするけど、レッドさんとの約束を守るためにも頑張るか。
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