部屋におかれていたパンフレットによると、この船は一日と半日ほどかけてジョウトに向かうそうだ。それまでの間、部屋から出て探索してもいいがそれよりみんなと戯れたかったため、部屋にいることにする。
ガーディとキルリアは打ち解けたのか、一緒に何やら話しているように見える。ミロカロスは時々二匹に相づちを打つように頷いたりしながらそれを見守っていて、コモルーは居眠りしている。
近寄ってきたガーディをわしゃわしゃと撫でると、嬉しそうに尻尾をふる。毛並みはもふもふとしていて柔らかく、ほどよく暖かい。
抱きつくと顔に触れる毛がくすぐったいが、暖かさと柔らかさに大きなぬいぐるみに抱きついていると錯覚させる。冬の寒い日に抱きついたら最高に暖かいだろう。構ってもらえて満足したらしいガーディがキルリアの方に小走りで向かう。
なんというか、平和だな。あのわけのわからない体験が夢のだったかのように思える。しかしあれは実際に体験したことである、なんというかトリップしたこと以上に衝撃的な出来事だった。それにしてもあれはなんだったのだろうか、あんなに体が溶けたりしたのにただ船に移動しただけって……どんだけ過剰演出なんだよ。
時々近寄ってくるミロカロスやキルリア、じゃれてくるガーディを撫でたりしながらのんびりとした時間を過ごしていると、突如船が大きく揺れた。
いきなり進路方向を変えたのかと思っていたら、扉の向こうから悲鳴が聞こえ部屋の中でやかましいくらいのサイレンが響き渡った。
驚いて部屋の扉から廊下に顔を出すと、慌ただしく船員や乗客が悲鳴をあげながら走り回っていた。状況がわからず呆然としていた私に、呼吸を乱し汗をかいた船員が早口で告げた。

「ロケット団に船を乗っ取られました! 至急甲板に集まってください!」

船員はまだ残っている乗客を探すために、走っていってしまった。青ざめた顔で廊下を歩く乗客達は、皆甲板に向かっているようだ。小さな子供は泣きながら親に手を繋がれて歩いている。その子供を慰める親も、泣きそうな表情をしていた。
廊下から顔を引っ込め、扉を閉めて考える。あの慌てっぷりからいって、ロケット団は悪逆非道の集団なのだろう。あの三人組みたいに憎めない、たまに映画なんかで仲間になったりする存在ではないのはわかった。
私一人が逆らってどうにかなるわけでもないだろうし、むしろ人質が傷つけられてしまうような展開がないわけではないだろう。
バトルが好きなコモルーもさすがにそれをわかっているのか、大人しくしている。キルリアとミロカロスは不安そうにしていて、ガーディは姿勢を低くして唸り声をあげている。とりあえず船員の指示にしたがって甲板に向かうべきか。

「私は大丈夫だから、みんな戻ってね」

ボールを三つ取りだし、開閉スイッチを押すと赤い光に包まれ飲み込まれていった。一人残され首をかしげるキルリアに近づき、抱き上げボールの中の三匹には聞こえないように囁いた。

「……もしものときは、よろしくね」

もしも私が船から落ちたりするようなことがあれば、あなた達だけで逃げてね。キルリアはその意味がわかったのか、覚悟を決めたような表情でうなずいた。キルリアもボールにしまい、甲板に向かう。

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