ボクの腕のなかで寝息をたてるナナシ。トモダチを抱き締めているときとは違う感覚がして、よくわからない感情があふれでてくる。ナナシの目から手を離すと、目尻に涙がたまっているのが見えた。ナナシはトモダチと仲良しだったから、いきなり離ればなれになって寂しかったのかもしれない。
不器用ながらも涙をぬぐっていると、トモダチのタブンネが扉の影から現れた。タブンネはナナシを見ると慌てて近づいてきて、心配そうにボクに無事なのかと尋ねてくる。何度もヒトに傷つけられてきたというのに、タブンネはヒトが好きなのかヒトが傷ついたりしていると心配し、癒してあげている。ボクには何故タブンネがそんなことをするのか理解できない。
タブンネがナナシの手を握って力を入れると、ナナシの顔色がよくなった。ナナシをここに連れてくるために、トモダチに頼んで毒状態にしていたんだけど解毒が不完全だったらしい。だからナナシは具合が悪そうだったのか。

「ありがとう、トモダチ」

「たぶーねー」

タブンネは満足そうに笑って扉から出ていった。扉が閉まると外の光が遮られ、人工的な光が窓の無い部屋に満ちる。後ろ姿を見送ってからナナシを抱え直し、手首に指を当てる。先程より呼吸が落ち着いているし、脈拍も正常だ。すぐに目を覚ますだろう。
何故かはわからないが、ナナシが傷ついたり悲しんでいたりすると、胸のあたりが奇妙な感覚に襲われる。トモダチが傷ついたときに襲われるときの感覚と似ているようで違う、不思議な感覚。その正体を知りたくて、ナナシをこの部屋につれてきた。
トモダチのドレディアは、この感覚を愛情だと言っていたけれどボクにはわからない。仮にこれが愛情だとしても、これをどう表現するべきなのかを知らない。キスや接吻というものは知っているけれど、それをしたからといってどうなるのかが理解できない。唇同士を合わせて、それでどうなるというのだろうか?
眠っているナナシの顔を覗き込み起きる気配がないか確認してから、静かに顔を近づける。寝息をたてるナナシの薄く開いた口から吐き出される息が、ボクの顔を撫でる感触がくすぐったい。
ナナシの唇に自分のものを重ねるが、よくわからない。手と手が触れあったときとは違う感覚がしたような気がするが、勘違いかもしれない。確かめるために何度かしているうちに、ナナシが身じろぎして薄く目を開いた。そのとき何故か、ボクはナナシに唇を重ねていることに対して焦りを感じた。

「……んっ?」

「おはようナナシ」

開かれたナナシの目にボクの顔が鏡のように写る。しばらく遠くを見るような目をしていたナナシは、ボクとの距離が0に等しいものだと気づくと目を丸くして距離をとろうとした。しかし、腕の中に収まっているせいか逃げることも出来ないまま抱え直される。ゾロアを抱き締めているときのように、こうやってナナシにくっついていると安心できる。
逃げることを諦めたナナシはおとなしくしていたが、何か思い出したのかひどく焦った様子で口を開いた。

「ペンドラー達はっ?」

「トモダチなら中庭で遊んでいるよ。ダイジョウブ、誰もトモダチを傷つけたりしない」

そう言うとナナシは安心したのか胸を撫で下ろしていた。ナナシはいつもボク以外の他の何かについて考えている。ボクはそれに気づく度に、奇妙な感覚に襲われてしまう。トモダチを救うこと以外に大切なものなんて無いはずなのに、その奇妙な感覚について考えてしまう。
その奇妙な感覚の正体が本当に愛情なのかを知りたくて、もう一度ナナシの唇に自分のものを重ねる。ナナシはボクの知らないたくさんのことを教えてくれる。この叫び声に満ちた部屋を綺麗にする方法も、ナナシなら教えてくれるかもしれない。
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