敷き詰められた線路に電車は走っておらず、何故かバスケットゴールのリングに電車が引っ掛けられている。部屋のすみに追いやられたバスケットボール。窓の無い部屋。私は何故ここにいるんだろうかと、痛む頭を抱えながら考える。ここに来る前、というか連れてこられる前は何をしていた? たしか、草むらでうろついていたら最近友達になったNと会って、それからどうした?
どうしても思い出せなくて、とりあえず落ち着こうと深呼吸しながらベルトに手を伸ばす。いつもモンスターボールがついているはずのそこには、何もついていなかった。慌てながら辺りを見回してもモンスターボールは転がっておらず、あるのは玩具だけだ。

「……どうしよう」

私一人の力ではここから出られない。最悪の事態を想像していまい、ずきずきと頭が先程よりも強く痛む。視界がちかちかとひかり、歪んできた。呼吸が乱れ、嫌な汗が出てきてどうすればいいのかわからなくなる。
外に繋がるのであろう扉はある、鍵がかかっているかはわからないがあそこからなら出れるはずだ。鍵がかかっていたら、無理にでも壊して、私の手とこの部屋の玩具を犠牲にすれば壊せるだろうから、そうしたら、助けに行ける。
ふらつく足を叱咤しながら、立ち上がり扉へと向かう。殴られたように痛む頭を抱え、にじむ視界で少しずつ足を動かす。吐き気がする。扉に手がかかるほどの近くに来たときには、すでに体力の限界が訪れていた。
自分でもわけがわからないくらいに、体力がつきている。今まで旅をして来たのだから、それなりに体力はあるはずだというのに。扉を開ける気力すらわかず、その場に倒れこんでしまう。固い床の感触とわずかに香る嗅いだことのあるにおいと、ポケモンのにおいが鼻孔をくすぐる。
そうだ、みんなを助けにいかないと。ここがわからないうえ、こんな体力でここから出るのは自殺行為だが、今の私にはそれくらいしかできない。可愛い幼馴染みたちをあいつから守るためにも、私は頑張らなくてはならない。
せめて立ち上がるため近くの壁にもたれ掛かろうと、床を這っていたら扉が開いた。いきなり開いた扉にとっさに反応できなかった私は、ぼんやりと部屋の中に入ってくる様子を眺める。鮮やかな緑の髪に黒い帽子、見覚えのある人物だった。

「……え、ぬ?」

息絶え絶えに呟いた私の声が届いたのか、Nは光の無い眼を丸くしながら慌てて近寄ってきた。顔色がひどかったのか、私の身体を抱き起こすと顔を覗き込む。

「ナナシダイジョウブ?」

「……むり」

心配かけたくはないがさすがの私でもこの状況で嘘は吐けない。本当にきつい。生まれてはじめて味わう感覚だ。ただの熱だとか、そういうものとは違う感覚がしてひどく苦しい。
しかし、今は私の体よりもあの子たちが心配だ。例えNがいたとしても安心できるわけではない、捕まっていたりしたらどうしよう。

「ペンドラー……どこ」

「トモダチなら中庭にいるからダイジョウブ」

「ペンド、ラー……」

譫言のように呟く私の頭を慰めるようにNは撫でる。Nがいることに安心したせいなのか間抜けだが目蓋が重くなってきた。必死に眠気をこらえようとしていると、Nの手が眼を覆った。

「トモダチもナナシも、ボクが守るから」

目蓋は下がり目の前が真っ暗になった。早くペンドラーたちに会いたい。
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