ボクとお揃いのポニーテールが、ナナシさんが動く度に揺れるのを目で追いかける。ナナシさんは最近カントー地方に来た人で、前は他の地方で旅をしていたそうだ。だから他の地方の、ボクの知らないポケモンをつれているんだけど、ナナシさんはポケモンに詳しいみたいでナナシさんからしたら他の地方の、カントーのポケモンもよく知っている。 ナナシさんは勉強したからだと言っていたけど、そんなに頑張ってたらオーキド博士に認められてポケモン図鑑もらえそうなんだけどな。そう言ったら困ったような表情をして、私じゃ無理だよって言ってたけどボクはそうは思わない。 ポケモンと仲良しだし、嫌われても仲良くしようと努力しているところ。ボクが弱いからかもしれないけど、ナナシさんに勝ったことは無いし。言い出したらきりがないけど、ナナシさんなら認められると思うんだ。 それに、ナナシさんは優しい。ボクが無理を言って一緒に住んでいるようなものなのに、文句をひとつも言わないし美味しいご飯だって作ってくれる。今もボクがちょっと甘いものが食べたいな、と呟いただけでわざわざクッキーを焼いてくれている。部屋中に甘い香りがただよっていて、お腹がすいたのかラッちゃんが台所を気にしている。 ラッちゃん達もナナシさんがつくるご飯が好きだから、いつも楽しみにしている。ナナシさんのポケモンのキルリアやコモルーも、ドドすけやピーすけと遊びながらもナナシさんの方を気にしている。 キルリア達は最初は始めてみるポケモンだったからすこし怖かったけど、ナナシさんに手を握ってもらいながらキルリアを撫でたときのことは忘れない。嬉しそうに笑うキルリアから、ナナシさんが好きだという気持ちが伝わってきてとても嬉しくなった。
「できたよー」
ナナシさんが焼きたてのクッキーを真っ白なお皿にのせてこちらに来ると、焼きたてのクッキーのいい香りにつられてラッちゃん達が近づいてくる。
「わあ、美味しそう! いただきます」
こんがりといい色に焼けたクッキーを手にするとまだ熱かったが、口に含むとさくっと音がして程よい甘さが舌の上に広がる。とても美味しくて幸せな気持ちになる。ナナシさんはラッちゃんやチュチュにクッキーを手渡し、コモルーには直接食べさせてあげている。コモルーは本当はナナシさんのことが大好きなんだけど、素直にできないらしい。でもナナシさんはそんなコモルーの気持ちに気づいているのか、ずっとにこにこしている。
「ナナシさん!」
「どうしたの、イエロー?」
「またつくってくださいね」
そう言うとナナシさんはちょっと目を丸くしたあと、嬉しそうに笑ってからボクに抱きついてきた。ボクもナナシさんに腕を回すと、チュチュとキルリアまで抱きついてきて笑い声をあげた。 みんなと一緒にずっとここにいられればいいのに。まだまだナナシさんと一緒にやりたいこどだってある。お揃いの髪型とか、ちょっと恥ずかしいけど一緒に寝たりしたい。ナナシさんは優しいから、次の約束があればここから出ていかないと思う。これはボクのワガママだけど、ナナシさんにはここにいてほしいから。
「約束ですよ!」
ナナシさんがここにいれば、ボクはずっと幸せでいられる。
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