※個人的にはゲームレッドとして書いていますが、いわゆる支部赤だと思われる方もいるかもしれません。そう思う方が多かった場合は、表記をゲームから支部に変えようと思っています。






知らないうちにマサラタウンにさよならバイバイしていたんだけど、どういうことなの? カントー初上陸して嬉しくなってマサラタウンに突撃したのは覚えている。その日たまたまシロガネヤマを下山したレッドさんがマサラタウンに来ているという噂を聞いて、野次馬根性というかミーハー心丸出しで見に行った。
見に行って、それからどうなった? グリーンさんがいて、オーキド博士がいて、レッドさんがいて……頭がずきずきと痛んで思い出せない。そういえばここはどこだ? 目の前には焚き火があって、私の体はたくさんの毛布に包まれていてとても暖かい。しかし、辺りを見回すと焚き火に照らされて光る白い雪がある。ここは洞窟で、雪が降る山か地方なのだろう。カントーに雪が降る町なんてあったか?
ぼんやりと焚き火のゆらゆら揺れる炎を見ていたら、遠くからぎゃおーという怪獣の鳴き声みたいなのが聞こえた。毛布に包まれたままゆっくりと立ち上がり、声の聞こえた方……たぶん出口の方に歩いていく。長時間座っていたのか足が痺れていてうまく歩けない。
壁で体を支えながらも歩いていくと、進行方向から雪の上を歩く音が聞こえた。立ち止まっても聞こえるということは、私以外の生き物がいるということだ。野生のポケモンだったらどうしよう、寒くて動けないし勝てる気がしない。どうしようかと迷っているうちに足音は近づいてきて、いきなり止まった。
今のうちに逃げようかと思っていたら、止まった足音が先程よりも速く近づいてきた。近づいてくる足音から逃げるように背を向けて震える足を叱咤して走ろうとすると、後ろから毛布をつかまれた。強い力で引っ張られて転びそうになったが、体を支えられて転ばずにすんだ。

「……何処に行くつもりだった?」

「え?」

後ろにいる、私の体を支えてくれている足音の持ち主がそう尋ねてきた。驚いて後ろを振り向くと、赤い帽子がトレードマークの彼がいた。雪山だというのに薄着な彼は、暗い目で私を見下ろしている。
雪山、そして彼……レッドということはここはシロガネ山? なんで? ちょっと意味がわからないんだけど。軽くパニックを起こした私を連れて元いた場所まで歩いていく。逃げられ無いようにか、毛布を強く握られている。

「あの、あの、あのですね」

「俺はレッド」

「えっ」

そんなことは聞いてないですよ! どうして私がここにいるのか、それを聞こうとしたら何故か自己紹介された。焚き火にたどり着くとレッドさんは私を抱き締めながら座った。私はちょうどレッドさんの膝の上に座るようなかたちになっている。慌てて降りようとしたら、胴にまわされた腕に力をいれられ逃げられなくなる。

「名前、教えて」

「……ナナシ、です」

まわされた腕から抜け出せそうにもないので正直に答えると、耳元でレッドさんが小さく笑う声が聞こえた。ばれないようにレッドに視線を向けると、首元に顔を埋められた。くすぐったいのと恥ずかしいのがあわさって身をよじると、噛みつかれた。
噛みつかれた場所がじわじわと痛む。歯が食い込んでいるのか、皮膚が破けそうになる感覚がする。思わず小さく悲鳴をあげると、歯が食い込む感覚は無くなったがべろりと舐められ首から離れていった。

「これからずっと一緒だよ、ナナシ」

涙目でレッドさんを見上げると、恍惚とした面持ちで私を見下ろしている。帽子で影になっているせいか、レッドさんの目の色はとても暗く私の姿すらも映さないほど濁っている。
私の目尻をぺろりと舐めると、しょっぱいと呟きながらも嬉しそうに笑った。ああ、逃げれる気がしない。
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