2020/02/14 23:40

深夜のテンションでチョコを作ってしまった。あげたい相手はいるけど、ファンの手作りチョコっていくらバレンタインでも受け取ってもらえないどころか普通にお断りされてるんだよな〜! なんで作っちゃったんだろう。
花束はかさばるしみんなからもらうだろうから、カントーの文化を取り入れてチョコを贈ろうという天才的な発想だと思ったんだけどなぁ。
目の前にあるそれを睨み付ける。自分で言うのもなんだけど、なかなかの出来映えだ。手のひらサイズのチョコの表面に描かれた彼をイメージした黒と白のジグザグ模様は綺麗に出ているし、トッピングの位置まで完璧。もしや売り物では? いいえ私の手作りです。天才だな。
渡せない相手に作らなければもっと天才なんだよな〜!

「どうしよう……」

さすがに捨てることはできないし、だからと言って他に渡せるような相手もいない。自分で食べても良いんだけど、自分で食べるのだったら普通に買ったわ。いや食べるけど、食べるしかないから。
へへ、明日のティータイムのお供にしよ……。
出しっぱなしにしておくわけにはいかないのど、とりあえず冷蔵庫に仕舞おうとチョコの乗った皿を手に取るとぽんと肩を叩かれた。振り向くと肩越しにこちらを覗きこんでくるストリンダー。

「起きたんだ」

たしか私が作り始める前には、寝室のベッドで仰向けになって寝ていたはずなのに。あまり大きな音をたてないようにはしていたけど、この狭いアパートの一室では音が届く可能性が高いしそれに彼の耳にはうるさかったのかもしれない。それかこの部屋中に漂うチョコの甘い香りで起きたのかも。
どちらにせよ、起こしてしまったのには変わりはない。謝ろうとしたのだが、その前にストリンダーがチョコを指差してくるのでそちらに意識が向いてしまった。

「これはチョコだよ」

いやそれは知ってるし、とストリンダーは首を横に降る。それもそうだ。何度も一緒に食べたことあるんだから知ってるに決まってる。何を言ってるんだか。
言おうとしていた言葉が出てこなかったせいか、意味のわからないことを言ってしまった。しかし天才的な発想で誤魔化そうと、言葉を続ける。

「ガラルは花束が主流だけど、カントーではバレンタインにチョコを贈るんだって」

なるほどと納得した様子でストリンダーはひとつ頷く。さすが私、ナイスな誤魔化しなうえに知識を披露してしまった。天才。

「んで、ネズさんのライブあるしボックスにいれようと思ったんだけど食べ物禁止なんだよね」

天才だけど調子のって言わなくても良いこと言っちゃうんだよな。なんで言っちゃうんだろうな。じっと私の顔を見つめてくるストリンダーから視線をそらす。
そらしたから視界の端で、ストリンダーの腕がチョコへと伸ばされたのに気づくのに遅れた。

「あ、こら!」

そう言ったときにはもう遅く、チョコはストリンダーの口のなかへ。人間には難しくても、ストリンダ―の大きな口ならたったのひとくちだ。もごもごと口を動かしごくりと飲み込まれていくのを何もできずにただ眺める。
どうせ自分で食べるつもりだったからそんな惜しくはないけど、もう少し味わってほしかったと思うしせっかく綺麗に作れたので見てもらいたかったし……うん、まあ、仕方ないか。ストリンダ―を責め立てることはしたくないし、何か騒いでるなと思われるだけで気にも留めないだろう。
ただ、ひとつだけ気になることはある。

「味はどうだった?」

その問いかけにストリンダーは私をじっと見下ろすだけで答えようとはしない。

「ねえ」

二度目の問いかけでくるりと背を向け寝室へと戻っていく。うそでしょまじで? この天才的なチョコに感想のひとつも残さないの?
感想を残すのは義務では? 義務では〜?
感想を求めてストリンダーを追いかけるけど、すでにベッドの上でひっくり返っていた。これもう寝る気満々じゃん。しかしまだ目は開いているのでチャンスはあるのかもしれない。天井見つめてるだけかもしれないけど。
三度目の問いかけをする前に、ストリンダーは胸の突起に手をかけてジャランとギターのような音を立てた。そのままストリンダーは機嫌よくかき鳴らすように突起を掻き毟り、電気のばちばちと爆ぜる音と共に響くギターの音。バトルの時のように電気を作るためではなく、音楽として音を立てている。これが、チョコレートの感想ということだろう。
弾むような音はとても楽し気で、まずかったとかそういう感想ではなさそうだ。さすが私天才……いやまてよ今は夜だからお隣さんまで聞こえて、お隣さんのストリンダーにも聞こえたら。そんなことを考えていると厚さのない壁を一枚隔てた向こう側から、同じようにギターの音が聞こえてきた。姿が見えないというのにストリンダー同士だからか息ぴったりでずれのない音を奏でている。
熱いセッション、俺たちのビートは止まらないぜ! 明日お隣さんに謝りに行こう。
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