机に向かって忙しなく筆を動かす先生の背中を盗み見る。 先生が筆を動かす度に肩が小さく揺れるのが好きだ。 こんな小さな動きにきっと誰も気付かない。 今、私しか知らない先生をひとつひとつ切り取るのだ。 そして私の心に刻んでいく。 ふいに触りたくなって、その肩にそっと手を伸ばした。 先生は指の先端が触れる前に気付いて振り返る。 「気が付かないふりをしてくださいよ」 拗ねた声を出してしまった。 先生の前ではどうも私は甘えただ。 「ごめんごめん。私はどうも無粋だな」 そう言いながら、先生は私の前髪に触れてそのまま頬に指を伝わせ、それから唇をゆっくりと撫でた。 その一連の動作に気を取られていたら、顔のすぐ近くに先生が来ていて。 あっ、と思わず声が出そうになったが、唇が塞がれてそのままになった。 無粋だなんて、そんなことないです先生。 こんな口づけされてしまったら、胸がおかしくなりそうです。 不意打ちなんて、狡い。 舌の動きに翻弄されて、もう何も考えられなくなった。 ただ、先生の事が好きだということだけ。 好き、好きです。 唇が離れそうになったけれど、もっとしていたくて自分から先生を引き寄せる。 半助は何事もなかったかのように角度を変えてまた口づけた。 ドッ、ドッ、ドッ、と心臓が激しく動いて苦しい。 熱い、体が熱い。 腰に手を回されて、そのまま静かに床に寝かせられる。 緊張と期待で胸がぎゅうぎゅうと締め付けられた。 好き、好き、好き過ぎてどうすればいいかわからない。 唇が離れて、少し間が出来た。 甘い、間。 「せ、んせ…」 好きと期待と緊張でぐるぐるした頭が命令した言葉が口から出た。 「わ、私の事、好きですか…?」 なんて、女々しく子供っぽい言葉。 恥ずかしい。 そう思っていたら、案の定笑われた。 おかしそうに、けれど、優しく笑っていて。 そっと、こう言われた。 「好きに決まってる」 心臓が、破裂しそうだ。 先生から好きなんて言葉を言われたら心臓が爆発する。 「ゆ、夢だったらどうしよう…でも、それでも嬉しい」 そう言うと、またさっきの顔で先生は笑った。 目の前がきらきらと光る。 愛しくて涙が溢れた。 今日の日は、いつまでも心に残ることだろう。 ******************** 好きに決まってる |