半助と生徒が利吉の方へ振り向いた途端。



ふわり、ふわり



利吉の目の前を白いふわふわしたものがいくつも通り過ぎる。



何だろうかとぱちぱちと瞬きをして、ふわりと浮く物体を見ようと目で追った。


「こんにちは利吉くん」


声を掛けられゆっくり近寄りそして微笑む半助に思わず見とれる。


半助の周りにもふわふわと白いものが浮いていて、なんだか幻想的で美しかった。


「こらこらしんべヱ、たんぽぽの種を吹いてまわるのはもうやめるんだ。利吉くんの服に付いてるじゃないか」


「へへへごめんなさぁい。だって面白かったから。乱太郎ときり丸にも持ってってあげよーっと」


しんべヱはたんぽぽを数本取ると、笑いながら走って行ってしまった。



「たんぽぽの綿毛でしたか…」


利吉は自分の服に付着した種をはたく。


「すまないね。服を汚してしまって」

ふわり笑って半助の手が利吉の肩を優しく撫でた。


「あ、いえ…汚れてなど…!」


半助の手が肩に触れていると思うと心臓が激しく動く。


頬が熱い。


半助を見れば、向こうもこちらを見ていて目が合った。


至近距離で見つめ合うかたちだ。


どくっ、

どくっ、

どくっ、


心臓が煩い。


半助はにこりと笑ってハイ綺麗になったよと利吉の頭を撫でた。


か、顔がほてる…。


「じゃあ食堂で話をしようか」


半助がくるりと向きを変えて食堂へ向かう。


細く見えるが背中は案外広かった。

腕も逞しい。

十八の自分ではまだ少し追い付けない体格。


眩しく見えた。



「先生、今日先生の修業時代の話が聞きたいんです」


眩しい背中に話し掛ける。


半助は振り向いて「いいよ」と笑った。



.

2