七松小平太は見ていた。


気配を消して、学園の塀を乗り越える山田利吉を。


もう、何度も何度も見ている。

利吉がこの学園に秘密裏に来る理由なんて、特に探す気にもならなかった。

絶対に危険がないと解っているからである。

これは全くの根拠も証拠もない。

根拠と言われれば、山田利吉の父がこの学園の教師をしているという事実があるのでそれでも構わないかもしれないが、忍者という職業上、何がどう絡み合っているかわからないし血縁だろうと義理があろうと断ち切らなければいけない時もあるだろう。

と、そういうことをぐだぐだと考えていたわけではない。

勘というかなんというか、そういうものが自分はものすごく働くのだ。

数年前、長次にこういう内容のことをちらりと話したことがあった。
もちろん利吉のことではなく、血縁を断ち切る云々のことだ。

その時、長次は少し悲しそうな瞳をしていた。

この、あるようでまったく情のない感覚は忍者には必要であるが、きっとそれは人間として寂しいと思われたのだろうと最近知った。


なので俺は色々自分なりに考えるようにしているから、よく見かける利吉について最近考えるようにしているのだ。


しかし、何を言っても俺は本能的に何かを嗅ぎ取る才能があるのだと思う。


俺は、最近よく利吉を見かけると言っていたが、違うようだった。

俺が、無意識に探していたのだ。


山田利吉を。


それを理解したのはそうたった今。


土井先生と利吉さんが唇を合わせている場面をみている。


(ああ、なるほど……)


縋るように貪るように土井先生に抱きついてそして唇を吸う利吉の姿は酷く扇情的だった。


ずくり、下半身が疼く。


(ふぅん…)

無意識に口の端が上がった。



数十分後。

利吉の気配を感じて偶然を装い利吉の前に立つ。


「利吉さん、こんにちはっ。学園にきてたんですねっ」

無邪気な笑顔をみせる小平太に、利吉は一瞬ぎくりとしたがすぐに平静に戻る。


「ああ、こんにちは。ちょっと用事があって」

優しげな笑顔で笑った利吉に、小平太は笑顔を貼りつけたままとんとんっと軽やかな足取りで近づいた。


急に至近距離にきた小平太に、利吉は瞬間身構える。


『利吉さんって、すげーエロいっすよね』


唇と唇が、もう息をすればくっつきそうな距離で低く言われた。

利吉の背筋を冷や汗とまた別の感覚がぞわりと駆けのぼる。


『いい匂いがする……』


本能がむき出しの声色に利吉の瞳孔は開く。


利吉が拳を小平太の腹部に突きだしたと同時にひらりと宙返りして小平太は距離をとり、そのまま走り出した。

「利吉さんまたあいましょーうっ」

いつもの無邪気で裏のなさそうな笑顔をみせて小平太は手を振り去っていった。



どくんどくんと胸がなるままに、利吉は学園を後にした。



(なんだ…あいつは…?…私と土井先生のこと、見ていた…のか?)


風を切りながら利吉は動揺する自分を必死に抑えることに専念した。


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楽しいですええもうすごく。

小平太の本能ものすごいと思うんですよ…

無意識な追跡(土井利前提の小平太→利吉)