【誰も知らない貴方を見たい】 ――私は、先生の唇と自分の唇が合わさる直前がとても好きだ。 いつもにこにこしている先生は、私といる時もにこにこしていて気持ちが読めない。 本当のところ、私の事を生徒ぐらいにしか思っていないのではないか、と感じるのだ。 よく笑い、よく怒り、よく拗ねる。 誰にでも感情をあらわにする先生に、誰にも見せたことのない顔なんて、あるのだろうか。 私は本当に先生と恋人同士なのだろうか。 そう考えている時、ちょんっ、と頬を突かれた。 「なに拗ねてるんだい?」 目の前に先生の顔。 可笑しそうな、困ったような顔をして私の頬を突いている。 「別に……なんでもありません」 フイッと横を向いた。 自分は自分が思っていたより子供のようだ。 「利吉くん、」 少し、低くなった声に振り向くと、そっと口付けをされた。 ゆっくりと伏し目がちに近付いてくる様は、いつもと違う表情だった。 影になった顔に、きらりと光る瞳は普段は見せない先生の男を垣間見せた。 唇が合わさる前の先生の表情は、私だけしか見られない。 その事実が、胸が締め付けられる程に切なく愛おしいと思った。 ****** どいりなんかりどいなんかわかんないかもしれない 誰も知らない貴方を見たい |