雄猫2匹、下心の計画?

「電車はこっちのルートの方が安いよな」
「つかフリーパス買う?」
「偶にしかランド行かねえし、ちょっと奮発してもいいんじゃね?」

とある部活終わりの放課後、ランドの計画を練る為に夜久と一緒にファミレスに入っていた。無駄に金を使う訳にもいかないので頼んだものはドリンクバーのみ。女性の店員さんが「ドリンクバー180円×2で居座らないでほしいです」みたいな視線を浴びせてくるのが分かるが、一応俺達も金のない高校生なんでご勘弁をいただきたい。有る金は別の所に使いたいのだ。お姉さんだってそうだよな?という無駄な問いかけは聞こえる筈ないだろうが。

「やっぱ夏だから水に濡れる系人気だよなー」

丁度今やっているランドのイベントはウォータースプラッシュ・ショーというやつで、簡単に言えば様々なキャラクター達がショーの最中に観客へ水をぶちまける、みたいな夏にぴったりな涼しいショーである。少し前にそのショーに行ったことがあるというリエーフの話しでは、結構酷くびしょ濡れになるのだとか。お姉さんのアリサさんはそれを分かっていた上で水着を服の下に着て楽しんでいたらしいが、リエーフはそんなことなんて考え無しに着替えも持たずショーへ参加したらしい。おかげでずぶ濡れになったまま1日を過ごし、翌日風邪を引いたとか。アホかあいつは。‥だからあの時部活休んだのか。

「ウォータースプラッシュ・ショー行くだろ?タオルとか持ってきてもらわねえとな」
「いやいや夜っくん分かってないですね?男のロマンがそこには詰まっているのに」
「は?」
「そういうトコ、そういうトコですよ夜久さん」

意味わかんねえ、みたいに腕組みをして首を左に傾ける夜久は、全く俺の考えていたことを意図していないらしい。男なら必ずと言っていい程考えるであろう自分の彼女が水に濡れるというシチュエーションに、タオルだけだなんて考えは浅はかすぎる。そこは普通水着とかビキニだろ。白いTシャツに短パンとか。って言った瞬間にぶわわと顔を真っ赤な茹で蛸にさせた夜久に、こっちまで変なこと言った気分になってしまった。

「いやそんなに照れなくても」
「‥‥死んでも黒尾には見せたくねえけど‥」
「おい」
「‥水着か」

まるで熱くなってきた体温を無理矢理下げるかのように、透明なサイダーを一気飲みしている。ピュアか。女子か。なんかここまでくるとオレがいつもまいに対してやらしいこと考えているみたいだろ。いやでも別に彼女だから良くね?
取り敢えず水着のことは後回しにして(というかそうしないと夜久がキャパオーバーしそうこいつこんなんで大丈夫か?)、リーズナブルに泊まれるホテルのパンフレットを見てはああだこうだと2人で議論を繰り広げた。向こうはどうなのか分からないけど、俺達に4人部屋という頭はない。それこそお付き合いしている者同士なのだから当たり前だろう。というかそもそもこの「ランドに行こうぜ」企画は俺の為でもあり夜久の為でもあるのだ。そこはちゃんと分かっていただかねばならない。

「お!」

ふと1枚のパンフレットを手に取った夜久が目を光らせていることに気付く。そうして覗き込むと「4人で1泊2万円」という有難い数字が見えて声が出た。なんだここめちゃくちゃお安い!内容としては、4人で1部屋だが2組カップル向けの室内となっているようで、少し広めのリビングが1つ、そして部屋が二つあって、それぞれ大きなベッドが置いてあるらしい。しかもここはまだホテル自体が出来たばかりで現在キャンペーンを行なっているらしく、明日までの予約で値段がここまで下がるのだそうだ。
1人5千円、ということはかなり浮く。食事に関してはどうとでもなるから、大体1人2万弱くらいあればなんとかなるのでは‥?

‥いやでもちょっと待てよ。

「黒尾、ここ、ここにしようぜ」
「え、マジで?いいの?」

ふとよく考えてみた疑問を口にする前に夜久が俺の背中をばしばしと叩く。どうやら夜久も、俺と同じ考えをしていたらしく随分と乗り気のようだ。というよりもこの男の中でここのホテルで決定らしい。
だが多分、気付いていない。ここのホテルで決めるということは、4人で1つの部屋になるということを。そして2つの部屋に鍵が付いているという記載はあったものの、どういう部屋の配置なのかは確認することはできないので、最悪もしかしたら隣同士に部屋が配置されてある場合がなくはないということを。‥つまり、‥アレだ。その、そーいうことにお互いがなった時に、色々と聞こえたらまずいような‥ないような‥。

「‥なあお前マジでいーの?」
「だってここが1番安いし、部屋2つあんだろ?ぴったりじゃん」
「いやそうなんだけどさ‥」

やっぱりこの男がそういうことに気付く筈はなかったか。いや別に‥いいけど‥。お前がいいなら‥。

結局俺はゆっくりゆっくりとスマホで予約の操作をすることにして、途中で夜久が気付いたらホテル変えればいいかとタカを括った訳だ。だけど夜久は楽しそうにスマホにタップしている内容を見ているだけで3杯目のサイダーをごくごくと飲み込むだけだった。お前、ここキャンペーンしてるからかキャンセルできないんだけど本当に、本気でいいんだよな‥?
そんな視線に対してこの男が「お前さっさと予約ボタン押せよ何やってんの?」って言いたげなのが分かって、もう知らねえと指をぽんと画面にタップした瞬間に出た「確定」という文字に大きく息を吐き出した。

「おっしゃ!フリーパスって前日にコンビニで買えるよな?俺買っとこうか?」
「ソウデスネ‥」
「‥予約そんなに疲れたか?悪い、ポテトでも奢る?」
「いやなんか胸いっぱいだからいいわ」
「なんだそれ」

よく分かんねえ顔を晒していたが、まあいいかとコンビニでフリーパスを購入するやり方を調べ出した夜久の顔にはずっと笑顔が浮かんでいる。色々気付かれたら面倒臭そうだけど、まあいいか。夜久が良いって言ったんだし、俺のせいじゃねえしな。決して。