雌猫2匹はそれぞれに不安

夕飯を食べ終えた後、また少しだけ遊んで、家族や友達にちょこっとだけお土産を買っていたら、いつの間にか周りは真っ暗になっていた。残念ながらホラーナイトの時期ではないので、外にゾンビの類は歩いていない。そもそも歩いていたら鉄朗がまたびっくりしちゃうだろうから今回はやめておこう、‥まあ、そういうことにしておく。

「これお部屋で食べたくて買ってきちゃった。限定ポテチ〜!」
「そういうの好きだよな。でも美味そう」
「でしょ。皆でパーティー開けしたかったからビッグサイズ買ってきちゃった」
「用意周到なことで」

鉄朗と夜久君が予約したというホテルに向かう途中、コンビニでお菓子とジュースを購入していた私は、さっきの情事のことも忘れて随分浮かれていた。仲の良いほのかちゃんと、その彼氏の夜久君と、そして私の彼氏の鉄朗。そんな絶対楽しいであろうメンバーで遊んで浮かれない訳がないのだ。夜はこれからだけど、まだ20時あたりでもうちょっとだけ4人でワイワイできる。そのあとは勿論鉄朗と2人っきり。折角の休日なんだから、1分1秒余すことなく楽しみたいのだ。

「ね、一旦ほのかちゃんと夜久君私達の部屋に呼んでぱーっとお菓子パーティーしようよ」
「私達?」
「え?‥あれ、もしかして私って鉄朗と別部屋‥?」
「いや、ちげーけど」
「けど?‥けどってなに?」
「まあ行けば分かるから」

あれ。なんでわたし今変に誤魔化されたんだろう。ぽふぽふ、とにこやかに頭を撫でられたものの、なんだか釈然としなくて首を傾げてしまう。浮かれていた頭がちょっぴり覚醒して、ずしっとお菓子袋が重くなった気がしたけれど、‥別におかしなことにならないよね‥?と一抹の不安が過ぎる。

鉄朗はかっこよくて優しくて、私には勿体ないくらいの彼氏。‥だけど、偶に何を考えているか分からない時がある。まあ、それは決まって私を喜ばせようとしているだけのことだったけれど、それが毎回だとは限らないと思うのだ。今回は、もちろん私達が普段一緒に過ごせないという意味でのお泊りでもあって、ほのかちゃんと夜久君の背中を押す為のお泊りでもある。‥だから絶対部屋は2つで、泊まるのもカップル同士が同じ部屋だと意気込んで、2人して勝負下着も買ってきた‥訳なんだけど‥。

「もー‥これは初心な2人の為だってこと分かってるよねー‥」
「そりゃモチロン。お互いお熱い夜になるのは間違いナシですよ」

その答え方だと余計に疑問が膨らんでいくんだけどなあ。期待しててよと言わんばかりの鉄朗の顔はこの4人の中の誰よりも楽しそうだ。‥というか、何か企んでる‥?不安はなんとか取り除けたけど、‥いや、なんだか逆に別の不安が募ってきたのは言わないでおこう。

見えてきたホテルは、なんだかホテルというよりはペンションみたいな見た目だ。他の豪華そうなホテルとはまた違い、外装も可愛くてナチュラルな色味に包まれていて、泊まりやすそうな雰囲気がある。そこで鉄朗と夜久君がチェックインしている間に私とほのかちゃんは荷物番だ。結局鉄朗のはっきりしなかった言葉に私はやっぱり首を捻るしかないが、当のほのかちゃんと言えばもうそれどころではなかった。ホテルを目にした瞬間からまるでラブホテルにでも入ってきたみたいに、既に緊張しすぎでガチガチである。心臓の音がこっちにまで聞こえてきそうだ。

「まいちゃんしッ下着ッもう着てる‥?」
「え、や、私はお風呂入ったタイミングで‥」
「どうしようなんかあったら困るかもと思ってさっき着替えた時に新しいやつ付けちゃった‥臭うかな‥汗臭いかな‥?」
「夜久君なら喜んで嗅ぎそうだけど」
「そッそそそれはそれでちょっと‥」

だいぶ吃っている。どうやらさっきから思考が追いついていないらしい。もしかしてここに来るまでの間、夜久君と話していることも上の空でずっと「そういうことになった場合」を考えていたのだろうか?

「ねえやっぱ2人っきりは緊張するよ〜‥」
「わかるわかる。でも大丈夫だよ、夜久君に身を任せちゃえばいいんだって」
「貧相だって思われたらどうしよう‥」
「いや女子から見ても貧相ではないかと」
「なんか変なとこに毛があるとか言われたらどうしよう‥!!」
「はいはいリラーックス」

背中をぽんぽんと叩いてしっかり深呼吸をしてもらうと、少しだけ落ち着いたのかほのかちゃんのお腹から小さな音が聞こえてきた。吃驚して顔を見合わせて、ついついぶっはと声を出して笑ってしまう。さっき食べたばっかりなのにもうお腹空いた?って言ったら、顔を真っ赤にしてぽこぽこ叩いてくるくらいには緊張を忘れることができたようだ。

「喜んでくれるって」

この言葉は、自分に言い聞かせている部分も大きい。‥だって好きな人の前では可愛くありたいし、綺麗でいたいものだから。‥だから、お部屋は2人っきりがいいんだけどなあ‥。