ずしりと、腰には重みがある。この重みは国を救うために必要なものである。
すらりと伸びた刀身。持ち手の先にはルビーが埋め込まれている。
それを持つ少年は、更に赤いマントと青銅と世界樹の恩恵により作られし盾を持ち道を行く。
勿論、少年は勇者である。この国に悪をもたらす憎き魔王を討伐するために。

勇者の名前はクラマといった。
クラマは元々は勇者では無かった。
母親と森の奥で豊かとは言えないが自由に暮らし、ペットの蛇達と遊んだり木を切ったり畑を耕したりしていた。
そんな少年が勇者となったのは王様から直接に頼まれてしまったからに他ならない。
何故クラマにというと、なんて事はない。勇者になりえる若者が魔王を討伐しに行ったっきり帰って来ないのだ。
残る若者はクラマのみとなり、王様は彼に頼るしななくなったのだ。

勇者の資格である剣はクラマを主と認めたし、クラマもやる気満々だった。
母親は心配してたが、クラマは自分が帰って来ても来なくとも、母親の暮らしを良くさせるという約束を取り付けた。
渋る母親に大丈夫だからと笑ってみせた。
やめる気はない息子に母親は家にあった一番上品な布と、夫の形見である金細工で真っ赤な、だが留め具は光り輝く金でできたマントを作ったのだった。


さて、そうしてクラマは魔王の城を目指して歩いていた。勿論彼一人では無い。途中で出会った格闘家のキリノと魔導士のシンドウを連れ歩いている。
この二人、見た目はなよっちいのにレベルはかなり高いようで、ここに来るまでの道のりはかなり楽だった。
もうこいつらで魔王倒せるんじゃね?ってくらいに。
まあ魔王を倒すには勇者の剣が必要で、剣の力を出すには勇者が必要らしい。


魔王の城についた。と言うか魔王の部屋についた。
ついたというか、中に案内された。
「勇者殿か、よくぞいらした」
とバンダナで目を半分に隠した赤い髪の男に案内された。
キリノもシンドウもわけがわからないといった顔でお互いに向き合っていた。
「へぇ、今回は随分可愛らしい勇者様御一行なんだな」
魔王がいるだろう高所にある席から声がする。これが魔王か……想像してた声とはだいぶ違う、というか若い。

魔王は、俺が小さい頃から聞いていた話ではでかい図体で角が生え緑色の身体をしている怪物のような姿をしていた。
だが現れた魔王はそれとはまったく違う、綺麗な顔をした俺らとそうは変わらない少年だった。
全体を通した雰囲気は大人っぽかったが、身体つきは細く背もあまり高く無い。特徴的な大きな瞳は少しだけ瞼により隠されていて、それが怠惰なイメージを出しなんとも言えない色気を醸し出していた。

魔王は美少年だった。
美少年と言えば、キリノやシンドウもかなりのレベルの美少年と言えるだろう。
だがクラマは彼らの事を綺麗な顔だなと思えど、それはそれで終わっていた。
だが、今回は違った。心臓が激しく異常を知らせるかのように早鐘を打つ。
身体が、顔が熱くなるのを確かに感じていた。



「チビと女と……なよなよした男か。何だお前ら本当に俺を倒しに来たのか?」
「なよなよ……」
「はぁ?女?目腐ってんじゃないのか?」
魔王の言葉に落ち込むシンドウと、怒りを露わにするキリノ。
……って事はチビって俺か。魔王の姿に放心状態になっていたクラマが現実に引き戻された。
「チビじゃねぇ!!!」
いや、チビだろとキリノがツッコンでいたがクラマは無視した。余裕そうにこちらを見てる魔王だってそんな高くない。
むしろキリノやシンドウより小さいんじゃないか?クラマは特徴的な大きな瞳をした魔王の目をジッと睨みつけた。
さっきはああなったが魔王は魔王だ。
勇者として倒すべき存在だ。
それにもしかしたらこの姿は仮で本来は何十mもある怪物かもしれない。
俺が剣を構えると、キリノやシンドウも構える。向こうも魔王は動かなかったが、側に使えてた二人が武器を取り出し戦闘体制に入れるように構えた。

じりっ…と足を地面に少し引きづり、次に離し魔王の方に駆けつける動作に入るタイミングを狙う。
「まあ待てよツキシマ、ヒョウドウ」
魔王が片手でヒラヒラと二人を制止した。クラマ達も思わず静止してしまう。
魔王はちらっとこちらを見て、
「……あのさぁ、ずっと気になってたんだけど」
疑問に思ってた事がずっとあったと口にする。
「なんで俺退治されなきゃなんないんだ?」

口をへの字に曲げ子どもっぽい表情で魔王は言う「俺別に悪い事してないのに…」
それを聞いた配下の一人、多分ツキシマと呼ばれた奴が慌てて魔王に駆け寄った。
「ミナミサワが悪いわけがなかろう!勇者共は自分達の名声が欲しいがために私達を貶めているに過ぎんのだ!」
「ちょっと待てよ!それだと勇者が名声に目が眩んだ碌でなしみたいじゃねぇか!」
ツキシマの言葉にクラマがすかさず反論する。他はともかくクラマはそんな邪な気持ちで勇者になったわけではないのだ。
「ってか悪い事してないって…」
「えっと、じゃあ若い女の子攫ったり」「しておらぬ!」
「道の行く商人から物品を強奪したり…」
「そんな愚かな事する訳がなかろう!」
「教会燃やしたり…」
「そもそも近づけぬ!」
ともかく、魔王も我らもお前らが言う悪事はやっておらぬ!
そう叫ぶツキシマの目には涙が滲んでいた。それを魔王はよしよしと頭を撫でる。
「そう言うわけでさ、俺らおとなしくここで暮らしてるんだよね」
わざわざ来てもらってなんだけど帰って。魔王は言う。
「帰らないと言ったら?」
「悪いが防衛するためこちらからも攻撃するからな」
魔王がそう言ってもう一人、ヒョウドウと呼んだ奴に目を向ける。ヒョウドウは冷静を保った、だが目はギラギラしており手には長刀が添えられていた。
ツキシマも弓を構えてこちらを睨んでいる。



「……クラマ、俺とシンドウは帰るわ」
最初に動いたのはキリノだった。
「俺別に金欲しくてやってたわけじゃないしな。魔王が悪じゃないってのなら退治する理由も無いしな」
キリノはそのままシンドウの肩を軽く叩くとスタスタともと来た場所を帰って行く。暫し呆然としていたシンドウも慌てて着いていく。
残されたクラマはただ呆気に取られていた。こんなのアリかよ!と叫びたい気分でいっぱいだった。
「……決めた、俺はここに残る」
ポツリとクラマは吐き出す様に呟いた。
「残ってアンタが本当に悪事を働いてないという証拠を突き止めてやる」
宣戦布告をする様に睨みつけながら魔王に宣言した勇者に、一同は呆気に取られる。ほんの少しの静寂の後、魔王は思わず噴き出してしまった。
「おまっ……それってつまり俺のためって事じゃないか!!」
ついには目に涙を溜める勢いで笑い出した魔王。それをわけがわからないといった顔で見ているツキシマとヒョウドウ。
「……わかった、いいよ。ここで暮らす?」
涙を拭いながら魔王は許可を出した。
「ミナミサワ!こんな何考えてるかわからぬ勇者など……!」
「大丈夫だってツキシマ。ヒョウドウ、部屋一人分空いてたよな?」
「ああ、空いておる」

魔王がにっこり笑ってクラマに向き直る。その笑みにクラマは思わず赤面する。

「よろしくな、勇者、様…?」

そうイタズラっぽく笑う魔王と、そんな魔王に無自覚ながら恋をした勇者の生活が始まったのであった。
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