身売り沢さん。




ゴトッと音がした。
その方向に目をやると、顔を真っ青にし、信じられないと言った表情でこちらを睨む後輩がいた。

「おい、携帯落としたぞ?」
壊れたんじゃね?そう携帯を指し示しながら言うと後輩は無言のまましゃがみこんで携帯を拾った。
一つ下で同じ部活の同ポジション。年齢より幾分も低いその体のどこから、ってくらい怒りや悲しみの混じったオーラを露わにしてる。

「……言いたい事あるなら言えば?」
まぁ大体何を言いたいのか予想出来るけど。
「あんた……っ、なんで、あれ、あんな事してるんですか!?」
「んー、ストレス解消と小遣い稼ぎ?」
人指を自分の唇に当てながら首をかしげる。これ、おっさんたちに受けがいいんだよね。同じ様にしながら「俺○○とかよくわかんない」って言うと「じゃあ教えてあげるよ」って、色々買ってくれたりするし。

「ストレス解消とか出来るわけ無いでしょう……!もっと自分を大切にしてください!」
後輩は下からぎゃんぎゃん言ってくる。
大切に、ってなんだよ、大切にしてるよ。自分も相手も気持ちよくなって、お金も貰えて、最高じゃないか。
「うるさいな、してるよ」
「してません!とにかく南沢さんがあんな事、俺が嫌です!」
「……じゃあお前が相手してくれんの?」


「…………はい」
「……………………え?」
「だから、わかりましたよ」

冗談の、つもりだったのに。じっっ、とまっすぐに意思の強い目がこっちを見ている。え、なんで、嘘だろ。

「おいおい、何するかわかってんのかよ?」
「わかってるから頷いているんです。南沢さんを他の誰にも触らしたく無いし、他の誰かに幸せなんかにはさせません」
「……」
「俺は、お金は無いけど貴方を愛する事は出来ますよ」

そう言って二カッと、笑って続ける。俺は頭がついていかない。言いたい事はわかる、でもなんでそんな、だって、

「ていうか単刀直入に言います。好きです付きあってください」

そう言って腰を曲げ頭を深々下げながら右手を出して来た。俺はこいつをただの後輩としか思って無いわけだし、だからその手を無視して帰ればいいんだ。
なのに、俺は金縛りにあったかのように足も手も動かなく、ただいつもより低い位置にある後輩のつむじを見つめるしか出来なかった。


どれくらい経ったのかわからない。長い時間かもしれないし、もしかしたら三分も経ってないかもしれない。
後輩はゆっくりと頭を上げ、手をおろした。
俺は結局、何も出来なかった。

「……いきなり言ってすみません。でも俺本気ですから」
そう言って後輩は頭を軽く下げ「また明日部活で」と言い残し、去っていった。

残された俺は暫しぼうっとした後、ふらりと帰路に戻る事にした。
途中、金の羽振りがいいからよく会ってる人から「今日はどう?」と電話が来た。
頷こうとしたら、あの後輩の姿が目に浮かんでしまいそういう気分じゃなくなってしまった。
いや、明日早くから朝練があるから元から今日はもうやるつもりは無かったんだ。
俺はその誘いを丁重に断り通電を切る。
そのまま電源を長押しして、画面は真っ暗になった。

こんな事なら車で通りまで送って貰わずに、ホテルで別れてれば良かった。
失敗した。だって俺はこのままで良かったのに。

……このままで良かったのに。
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